虫に食われた古文書

虫に食われた古文書

『星野家文書』を収蔵し、一連の文書を一つ一つ点検していたとき
虫に食われて固着した文書があった

見たところ書簡かな?と思いつゝ、どのような内容の文書か分らないので、慎重に慎重に固着を剥して開く
(初心者の人は真似しないで、専門の業者へ)

剥していくと、初めの方に「片山流居合」云々という文字が見え、期待は膨らんだ

『片山久義書簡:安永五年九月十五日付』筆者蔵

剥し方にはいくつかコツがある
固着した断面は、虫の唾液か何かで糊づけされたようになっているので、そこへ向けて逆らわないように剥す
決して紙を破るようなことがあってはならない

ぐるりと刳り抜かれるように食われたところは、紙が孤立して浮くので、これには対処が必要

何より無理しないことが大切
ダメだと思ったら、諦めて専門の業者へ

『片山久義書簡:安永五年九月十五日付』筆者蔵

披いていくと「片山利介」の署名
これはもう大当たりと言って良い
早まる鼓動を抑えつゝ残りも慎重に剥して一息ついた

古文書蒐集の醍醐味は、やはりこのような発見があったときに強く感じる

古文書学や考古学を学んだ経験から、基本的に現状維持を貴ぶ姿勢ではあるものゝ
さすがにこのボロボロの状態では、保管しにくい
さらに傷む可能性もあり良くないということで、京都の老舗に裏打ちを依頼した

『片山久義書簡:安永六年七月四日付』筆者蔵

裏打ちを依頼するとき、もう一通の片山利介書簡も出すことに
こちらは虫食いよりも湿気による汚れと、表具の傷みが目についた

『片山久義書簡:安永六年七月四日付』筆者蔵

さほど昔の表具とも見えないが、安表装なのか仕立てがあまり良くないため、本紙まで折れていた

『片山久義書簡:安永五年九月十五日付』筆者蔵

裏打ち後、修復前の状態を撮影したプリントを呉れる

初回のときは、もっと丁寧な作業工程・内容を示した解説書のようなプリントも呉れた

『片山久義書簡:安永五年九月十五日付』筆者蔵

下手に表装を依頼すると端を裁断されるので、簡易な裏打ちのみ
表装はいつでも出来るし、やはり現状維持を優先する

また、汚れを落とすために洗浄はしない
あまり古色を落すと、白々しい仕上がりになって愕然とする

裏打ちしたゞけでも、開閉するとき傷む心配がないので安心

工賃は当時(十年近く前)、裏打ちのみ12,960円

『片山久義書簡:安永六年七月四日付』筆者蔵

こちらの書簡は、古文書へのこだわりが鎌首をもたげ、端裏の返しを本来の位置に移してもらうことに
さすがに表裏まで元通りにすると読めないので、そこまではせず

先に挙げた画像の通り、署名のある端裏は本紙の左側にして表装されていた
しかし、これでは本文「一筆致啓上...」の右側の余白が少ないため、なんとなくバランスが良くない
そこで本来の位置に戻してしまおうと依頼

工賃は、表具からの剥し+裏打ち15,984円

参考文献『星野家文書』
因陽隠士
令和七年八月六日記す