虫に食われた古文書
『星野家文書』を収蔵し、一連の文書を一つ一つ点検していたとき
虫に食われて固着した文書があった
見たところ書簡かな?と思いつゝ、どのような内容の文書か分らないので、慎重に慎重に固着を剥して開く
(初心者の人は真似しないで、専門の業者へ)
剥していくと、初めの方に「片山流居合」云々という文字が見え、期待は膨らんだ

剥し方にはいくつかコツがある
固着した断面は、虫の唾液か何かで糊づけされたようになっているので、そこへ向けて逆らわないように剥す
決して紙を破るようなことがあってはならない
ぐるりと刳り抜かれるように食われたところは、紙が孤立して浮くので、これには対処が必要
何より無理しないことが大切
ダメだと思ったら、諦めて専門の業者へ

披いていくと「片山利介」の署名
これはもう大当たりと言って良い
早まる鼓動を抑えつゝ残りも慎重に剥して一息ついた
古文書蒐集の醍醐味は、やはりこのような発見があったときに強く感じる
古文書学や考古学を学んだ経験から、基本的に現状維持を貴ぶ姿勢ではあるものゝ
さすがにこのボロボロの状態では、保管しにくい
さらに傷む可能性もあり良くないということで、京都の老舗に裏打ちを依頼した

裏打ちを依頼するとき、もう一通の片山利介書簡も出すことに
こちらは虫食いよりも湿気による汚れと、表具の傷みが目についた

さほど昔の表具とも見えないが、安表装なのか仕立てがあまり良くないため、本紙まで折れていた

裏打ち後、修復前の状態を撮影したプリントを呉れる
初回のときは、もっと丁寧な作業工程・内容を示した解説書のようなプリントも呉れた

下手に表装を依頼すると端を裁断されるので、簡易な裏打ちのみ
表装はいつでも出来るし、やはり現状維持を優先する
また、汚れを落とすために洗浄はしない
あまり古色を落すと、白々しい仕上がりになって愕然とする
裏打ちしたゞけでも、開閉するとき傷む心配がないので安心
工賃は当時(十年近く前)、裏打ちのみ12,960円

こちらの書簡は、古文書へのこだわりが鎌首をもたげ、端裏の返しを本来の位置に移してもらうことに
さすがに表裏まで元通りにすると読めないので、そこまではせず
先に挙げた画像の通り、署名のある端裏は本紙の左側にして表装されていた
しかし、これでは本文「一筆致啓上...」の右側の余白が少ないため、なんとなくバランスが良くない
そこで本来の位置に戻してしまおうと依頼
工賃は、表具からの剥し+裏打ち15,984円
