
当時の箱入りの伝書は意外なほど数が少ない
所蔵する伝書を数えても両手で足るほど
今回はその伝書の中からこの三巻揃いを


目にも眩しい金襴の表裂
パリッとして強(こわ)い、中に固い芯を使っているのか


罫引に金泥の絵
この様式は、知る限り承応のころまで遡る
筆耕の手跡も上手
藩の右筆方の仕事か


信州松代の真田家の佐分利流槍術指南役として知られる春原幸前
この伝書によって、神道流も指南していたと判る
宛名の「幸栄公」は、真田幸良公のこと
幸栄は前名
真田幸貫公の世嗣、松平定信公の孫にあたるが、公式には定信公の末男ということに
伝書を伝授された文政十三年は、十七歳の年
天保十五年、家督を継ぐ前に早世した、享年三十一
伝系に「落合瀬左衛門」の名がある
この名を見て思い出すのは、数年前の落合家文書散逸事件
勝手に事件と呼んでいる
覚ている方もいると思う
推測するに、東京方面で売りに出され、散り散りになり
さらにヤフーオークションで細切れに散逸したのかなと
せっかく現代までまとまって伝わってきたのに、バラバラに売り散らかさされるのはどうなのかなと思いつゝ眺めていたことを覚えている
参考文献『寛政重修諸家譜』

因陽隠士
2025.8.11