武術史料拾遺

筆蹟畫像卷二

每一展觀.覺鬼雄毅魄隱現銀鉤鐡畫間.未嘗不正襟起敬.<『題倪文正公眞蹟』賴山陽>

一たび展觀する每に.鬼雄の毅魄 銀鉤鐡畫の間に隱現するを覺へ.未だ嘗て襟を正し敬を起さずんばあらず.
柳莊 山縣昌貞七律 奉送木本君兄弟

Chinese style poem. By 山縣昌貞 ( 1725 - 1767 ). Edo period, dated 18th century. Hand scroll. Ink on paper. 28.2 × 64.2 cm. Private collection.

竹山 中井積善 朱子贈程道人詩書以奉贈堀翁

Zhūxī ( 朱熹 ) poem. By 中井積善 ( 1730- 1804 ). Edo period, dated 18th century. Hanging scroll. Ink on paper. Private collection.

栗山 柴野邦彥七絕 盤肴捧書

Chinese style poem. By 柴野邦彥 ( 1736- 1807 ). Edo period, dated 18th - 19th century. Hanging scroll. Ink on paper. 123.9 × 27.4 cm. Private collection.

春水 賴惟完七律 春雨縮景園

Chinese style poem. By 賴惟完 ( 1746- 1816 ). Edo period, dated 文化 7 ( 1810 ). Hanging scroll. Ink on paper. 23.8 × 54.3 cm. Private collection.

愛日樓 佐藤坦 自述七律

Chinese style poem. By 佐藤坦 ( 1772 - 1859 ). Edo period, dated 天保 14 ( 1843 ). Hanging scroll. Ink on silk. Private collection.

雲華 大含七律 恭賀本師上人五十初度

Chinese style poem. By 大含 ( 1773 - 1850 ). Edo period, dated 文政 12 ( 1829 ). Hanging scroll. Ink on paper. Private collection.

小竹散人 篠崎弼未定稿 北畠氏戎衣歌 爲後藤碩田

Chinese style poem. By 篠崎弼 ( 1781 - 1851 ). Edo period, dated 天保 14 ( 1843 ). Hanging scroll. Ink on paper. Private collection.

米葊 市河三亥 諸葛武矦出師表

Chūshībiǎo ( 出師表 ). By 市河三亥 ( 1779 - 1858 ). Edo period, dated 天保 10 ( 1839 ). Hanging scroll. Ink on silk. Private collection.

山陽 賴襄七律

Chinese style poem. By 賴襄 ( 1781 - 1832 ). Edo period, dated 19th century. Hanging scroll. Ink on paper. Private collection.

恭齋 市河三千 送高閑上人序 錄奉送雲華上人之之京

Sòng gāo xián shàng rén xù ( 送高閑上人序 ). By 市河三千 ( 1796 - 1833 ). Edo period, dated 文政 7 ( 1824 ). Hand scroll. Ink on paper. 15.3 × 26.8 cm. Private collection.

洗心洞 大鹽後素 王餘姚七絕詩

Wáng yúyáo ( 王餘姚 ) poem. By 大鹽後素 ( 1793 - 1837 ). Edo period, dated 文政 9 ( 1825 ). Hanging scroll. Ink on silk. Private collection.

百峰山人 牧輗 夜潮記

夜潮記. By 牧輗 ( 1801 - 1863 ). Edo period, dated 1861. Hanging. Ink on paper. 83.0 × 29.6 cm. Private collection.

旭莊 廣瀨謙 春日杯歌 爲樺石梁先生賦

Chinese style poem. By 廣瀨謙 ( 1807 - 1863 ). Edo period, dated 文政 ( 1818 - 1830 ). Hanging scroll. Ink on paper. Private collection.

眞木保臣 甲子試筆

Chinese style poem. By 眞木保臣 ( 1813 - 1864 ). Edo period, dated 文久 4 ( 1864 ). Hanging scroll. Ink on paper. Private collection.

伴林光平 菅家遺誡二則

菅家遺誡 words. By 伴林光平 ( 1813 - 1864 ). Edo period, dated 安政 3 ( 1856 ). Hanging scroll. Ink on paper. Private collection.

訥庵 大橋正順 漫書贈岩瀨君純甫歸其鄕

Shēnyín yǔ ( 呻吟語 ) words. By 大橋正順 ( 1816 - 1862 ). Edo period, dated 安政 2 ( 1855 ). Hanging scroll. Ink on paper. Private collection.

海舟 勝義邦 五言古詩

Chinese style poem. By 勝義邦 ( 1823 - 1899 ). Edo period, dated 明治 1 ( 1868 ). Hanging scroll. Ink on paper. Private collection.

柳莊 山縣昌貞七律 送木本君兄弟

東西に祇役[奉命任職]すること五百程.趨陪[趨承陪侍]して還って會津の城に向ふ.蹄を飜し輕く蹈む 寒雲去る.劍を帶び遙かに凌く 朔雪[北方の雪]鳴る.適意只だ應に菊徑を尋ぬへきのみ.歸心[望郷の念]豈に蓴羹[故郷の味]を思ふに在らんや.嗟[あゝ]君に邂逅す 絲竹に緣り.幾日か更に聞かん 雙鳳の聲を.右木本君兄弟の大翁より會津に歸するを送り奉る.峽中山縣昌貞.

竹山 中井積善 朱子贈程道人詩書以奉贈堀翁

十載の扶行 短節[杖]を恃むのみ.一醫に相値ひて奇功有り.門を出で歩を放いまゝにれば人事争ふ.是前来の勃窣[跛行]翁にあらず.
右朱子程道人に贈る詩書以て堀翁に贈り奉る.積善.

栗山 柴野邦彥七絕 盤肴捧書

西城の講後 阿邸を過る.廣岡兄蕎麦麪を喫ふ.新に厨人總七なる者有り.親しく一盤肴を奉て而して進む.其調烹を以て天味を傷はす.自負して清興ならんと欲する也.此に書して以て謝を道ふ.
径筵の初散城闉を下り.梁苑の賓僚と盃酒に親しむ.麥線果粉世の味に非す.盤肴に書を捧け天真を盡す.几間の盆樹紅葉に蒸せ.樓下の石池錦鱗躍る.我是れ侯家の舊門士.疎狂厭ふ莫れ往来の頻なるを.九月十七日.柴邦彦稿を具ふ.

春水 賴惟完七律 春雨縮景園

春雨の縮景園.花分[芬]を賞す.桃紅.復た宿雨を含む.柳緑.更に朝烟を帯ふ.韵を為し緑字を得て命に應す.
名園 日々相宜しからさる無し.雨に乗す 今看る 全く俗より出つるを.水面 嬌を弄す 花迎ふるか若し.墻頭 態を含む 山浴するか如し.詩 漁唱と樵歌とに和す.酒満つ 鵞黄 将に鴨緑ならんとす.茲の境 人間 窺ふこと易からす.陪遊 何の幸ひか 遊矚を恣にす.庚午(文化七年)三月十三日.惟完.

愛日樓 佐藤坦 自述七律

近ころ幽棲を墨水[隅田川]の涯[きわ]に築く.豈に圖らんや今日公車に赴くを.聖明普く照らし珠礫を分ち.文武兼ね收め免罝を施す.比せず 蟠桃初めて結實するに.恰も同じ 枯枿再び芽を生ずるに.老吾願は書香をして繼がしめん.一經に侍し餘一家を傳ふ.保卯孟秋.一齋主人坦.

雲華 大含七律 恭賀本師上人五十初度

六條の佳氣蔚として蒼々.土木經榮大道場.地は帝城に接す仙路に近し.林臺麓に隣す法雲長し.將に雛鳳に升平の象を見ん.獻壽す人德澤の香を聞く.燕雀たる微臣猶ほ祝賀す.頌成塵點劫無量.
本師上人五十初度を恭賀し命に應す.臣僧含.

小竹散人 篠崎弼未定稿 北畠氏戎衣歌 爲後藤碩田

北畠氏戎衣歌.後藤碩田の爲に.
古來將相儒風を兼ぬ.千載獨身諸葛公のみ.我か北畠公王事に勞す.何そ其れ世を隔てゝ畧相同し.
維昔建武中興の日.天步猶艱天下裂つ.公論正統君心を格す.半璧偏安賊未た滅ひす.延尉西のかたに敗れ中將北す.宛も關趙の各蹉跌するか若し.託を受け鞠躬して幼主を輔く.海陸に苦戰して播越幾し.兒子皆能く王氣に敵ふ.忠孝身を致して大節を全ふす.
碩田古を訪ひて帝幾に來る.我に當時の一戎衣を示す.珍重實に是れ公家の物.他年之れを南山の陲に得る.因て南北旣に講和するを憶ふ.公家巍然として勢の國司たり.九世運盡天正の際.嗟くへし喪兦して復た遺るもの無きを.遺物猶ほ師將士を想ふかことし.翊衞王室威儀を肅す.果して誰か爲の紅絨綠縚か.古色存す芳野の花落つ.
殘花有り.君は見すや.室町將軍十三世.封狼生貙權勢を竊む.如今狗臝食餘あらす.豈に其の鬼に問んや餒へて厲[癩]を爲すかと.
嗚呼.公の正氣天地に滿つ.關城の書.出師表と比すへし.平日書を讀て感憤の餘り.今戎衣を賦して更に淚を流す.
小竹散人.未た稿を定めす.

米葊 市河三亥 諸葛武矦出師表

諸葛武矦出師表
先帝創業未半而中道崩殂今天下三分益州罷敝此誠危急存亡之秋也然侍衞之臣不懈於內忠志之士忘身於外者盖追先帝之殊遇欲報之於陛下也誠宜開張聖聽以光先帝遺德恢弘志士之氣不宜妄自菲薄引喩失義以塞忠諫之路也宮中府中俱爲一體陟罰臧否不宜異若有作奸犯科及爲忠善者宜付有司論其刑賞以昭陛下平明之治不宜偏私使內外異法也侍中侍郞郭攸之費褘董允等此皆良實志慮忠純是以先帝簡拔以遺陛下愚以爲宮中之事々無大小悉以咨之然後施行必能裨補闕漏有所廣益將軍向寵性行淑均曉暢軍事試用於昔日先帝稱之曰能是以衆議擧寵爲督愚以爲營中之事々無大小悉以咨之必能使行陣和睦優劣得所親賢臣遠遠小人此先漢所以興隆也親小人遠賢臣此後漢所以傾頽也先帝在時每與臣論此事未嘗不歎息痛恨於桓靈也侍中尙書長史參軍此悉貞亮死節之臣也陛下親之信之則漢室之隆可計日而待也臣本布衣躬耕於南陽苟全性命於亂世不求聞達於諸侯先帝不以臣卑鄙猥自枉屈三顧臣於草廬之中諮臣以當世之事由是感激許先帝以驅馳後値傾覆受任於敗軍之際奉命於危難之間爾來二十有一年矣先帝知臣謹愼故臨崩寄臣以大事也受命以來夙夜憂歎恐付託不效以傷先帝之明故五月渡濾深入不毛今南方已定兵甲已足當獎率三軍北定中原庶竭駑鈍攘除姦兇以復興漢室還于舊都此臣所以報先帝而忠陛下之職分也至於斟酌損益進盡忠言則攸之褘允之任也願陛下託臣以討賊興復之效不效則治臣之罪以吿先帝之靈責攸之褘允等之咎以彰其慢陛下亦宜自謀以諮諏善道察納雅言深追先帝遺詔臣不勝受恩感激今當遠離臨表涕泣不知所云
天保屠維大淵獻長夏爲邨松君囑米葊河三亥書

山陽 賴襄七律

鴨子川の頭春若何.晴沙遙に暎す翠の坡陀.地輦轂に連る鶯花梅.山に獲る樓臺錦綉の窠.寶瑟の聲に迷ふ柳灣の月.緋裙の影亂る板橋の波.幾人か總て在る揚州の夢.識らす秊光擲梭の如し.襄.

恭斎 河三千 送高閑上人序 録奉送雲華上人之之京

苟も以て其の巧智に寓するへくんは.機をして心に應し氣を挫かさらしむれは.則ち神完ふして守ること固し.外物至ると雖も心に膠せす.堯.舜.禹.湯天下を治む.養叔射を治む.庖丁牛を治む.師曠音聲を治む.扁鵲病を治む.僚の丸に於ける.秋の奕に於ける.伯倫[劉伶]の酒に於ける.之れを樂しみ身を終へるを厭はす.奚そ外慕に暇あらんや.夫れ外慕を徙らに業とする者は.皆其の堂に造らす.其の胾を嚌まさるものなり.
往時.張旭艸書を善くす.他伎[技]を治めす.喜怒.窘窮.憂悲.愉佚.怨恨.思慕.酣醉.無聊.不平.心に動き有らは必す草書に於て之れを發す.物に於ては山水.崖谷.鳥獸.蟲魚.草木の花實.日月列星.風雨水火.雷霆霹靂.歌舞.戰鬪.天地事物の變を見るに.喜ふへし愕くへし書に一寓す.故に旭の書は變動すること猶鬼神のことし.端倪すへからす.此を以て其の身を終へて後世に名あり.
今.閑[高閑]の草書に於て旭の心有らんや.其の心を得すして其の跡を逐ふ.未た其れ旭を能くするを見さるなり.旭と爲るに道有り.利害を必す明らかにし.錙銖も遺す無し.情中に炎へ.利と欲と進みて鬪ふ.得る有り喪ふ有り.勃然として釋せす.然る後書に一決して後旭に幾かるへきなり.
今.閑[高閑]浮屠氏[佛陀]を師とす.死生を一にし[生死を度外視する].外膠を解す.是れ其の心となり必す泊然たれは起つ所無く.其れ世に於て必す澹然たれは嗜む所無し.泊と淡と相遭ふや.頽墜委靡.潰敗すること收拾すへからす.則ち其れ象無きの書を得る然らんや.然るに吾浮屠人は幻を善くするの技能多しと聞く.閑[高閑]如し其の術に通せは.則ち吾知ること能はす.
閼逢涒灘葭月下浣.錄して雲華上人京へ之くを送り奉る.河三千.

洗心洞 大鹽後素 王餘姚七絕詩

箇箇の人心に仲尼有り.自ら將に聞見せんとせば遮迷に苦しむ.而して今眞頭面を指し與ふるは.只是れ良知のみ更に疑ひ莫し.
魯哀公十有六年夏四月十有一日孔夫子卒す.幾千年.茲に而して夫子の得人心に在ること.萬古一の如し.人々謙讓して處かず.吁[あゝ]悲しきかな.今亦た王陽明詩の驗する所誣せず.故に文なるかな.子旃[これ]を愼[つゝ]しめよ.

大鹽後素翁書幅の後に書す.
大鹽後素翁書す所の王餘姚七絕詩一幅.西讚[讚岐]大氣多君收藏する所のものなり.其の小引數文字[端書]は.後進を激獎するの意至れり.筆力遒健.以て自然發するの風骨秀逸.天機爛漫.展閱の間.人をして仰瞻俯談して.敬することを堪へざらしむるなり.嗟[あゝ]抑[そもゝゝ]翁の人と爲り.眞摯剛毅.夙に餘姚の學を修め.志は時幤を矯めるに在り.憂國の念.每に諸著作に發し.猶未だ以て自ら足れりと爲さず.將に諸行事を徵[こ]らさんとして.遂に以て天保丁酉の變を釀成す.人或は其の自ら顧ざるの迂を笑ふか.吁[あゝ]彼の決や.尋常庸吏の企及する所に非ざる也.今此幅を觀て感ずる所其當時に及び.悵然たること之に久し.明治己未夏日書す.東海道人□泰識す.

百峰山人 牧輗 夜潮記

蕉石大夫藏する琵琶に夜潮と命名する記.
吾聞く.「君子故無くして.玉身を去らす.」と.又聞く.「琴瑟御に在り.靜好ならさること莫し.」と.夫れ「物を玩へは志を喪ふ.」と曰ふと雖も.擇て之れに從へは.以て德性を養ふこと有ること是の如し.故に君子は焉を取る.況や其の能く志氣を感發する者に於てをや.
故友紀翁春琴好て平語を演す.當に一古琵琶を長州赤馬關に獲へし.靜好愛すへし.未た曾て其身を去らさる也.
伊藩蕉石大夫も亦た平語を善くす.見て之れを喜ふ翁は已に亡し.太夫乃ち請ふこと之れ有て名を余に謀る.
余聞く.「赤馬關は壇々浦々に瀕る.卽ち文治の間.源兵平族を殲するの處なり.海容南北.夜潮悲壯の聲は.兩軍相蹙るか如し.」と.
此の琵琶は頗る之れに類す.因て名つけて曰く.「夜潮.」と.其の出つる所を誌す也.
或るひと余に謂て曰く.「大夫は一國か具瞻の歸する所なり.文を講し武を演するに當ては.多士を率るに似たり.彼の平語の若くんは.則ち曚者の業なり.大夫何そ之れを其の人に屬せさる也.」と.
余曰く.「然らす.夫れ樂を之れ曚に屬するは.固より久し.而れとも聖賢も亦た往々にして之れを學ひて.之れを六藝に列す.今の謂ふ所の雅樂は.盖し隋唐の餘響なり.而して其の歌章を兦ひ.其の餘散して.俗曲を樂しみ.寓言に率て.鄙とせさるは.則ち謠なり.」と.
獨り平語二百囘.紀實の史のみ.平氏一代の盛衰を具にす.而して源氏の繼興[相繼興起]なる所以の者も亦た焉に寓す.而して二家の君臣は.忠孝義勇の烈業.佞邪之辨に戾る.情形畢露.其の時に親目するか如し.況や之れを四絃に被むれは.其の緩急を節として.其の辭色を撡す.發揚綽厲.人をして勇躍興起して.嚮ふ所を知らしむ.謂ふ所の頑夫は廉.懦夫は志を立つ者在り.其の世道人心に關するや.是くの如し.
則ち當今の世.君子宜しく玩ふへき所の者は.豈に復た尙ふこと有らんや.
然りと雖も工其の事を善くせんと欲すれは.必す先つ其器を利とす.今や大夫は先つ其の器を利として.以て自ら德性を養ふ.誰か宜しからすと謂ふや.且つ彼の文を講し武を演する大夫の家の若くんは.常に從事する所か.之れを玩具に比すれは.是れを之れ其の類を知らすと謂ふ也.
或は其の政暇.遊息の際.賓僚を風月の宴に迎へ.家庭を臣隸するに當て.主人乃ち四絃を命し.試に一曲を按す.憂然たり.鏘然たり.風浪俄に噴き澎湃して相激しきか若し.四坐聲を吞み耳を屬す.未た嘗て其の戰鬪に馳逐して奮爭するの狀を見るに如かさるにあらす.
則ち飮酒の間と雖も.亦た士氣を鼓するに用ふべくして.世々傳ふ.
龜正干戈の際.雄豪妄會の時.瞽師を召して.平語を演せしむ.以て娛樂を資く.
大夫の家祖睡庵君[渡邊了]は.當時驍武無雙と稱せられ.其間に周旋す.豈に其の家法を受くる所有て然らんや.
歲之甲寅[嘉永七年].伊州の地大震して.城壁皆壞る.時に琶槽[琵琶]も亦た缺損を被る.士に命して修治して.厪に舊貫に復せしむ.
今茲仲春.大夫上遊して.此れを載して.以て來りて記を余に囑して曰く.「吾此の物と.皆恙無きを得る.而れとも紀翁か子を覩るに及はす.」と.豈に感して之れを筆せさること無きを得んや.遂に余或る人に答ふる語を擧て.之れを其の櫝中に書き副ふ.
時に文久紀元歲辛酉重三復二日.平安客舍の鉼隱居に撰す.辱知生.美濃百峰山人牧輗.

旭莊 廣瀨謙 春日杯歌 爲樺石梁先生賦

越矦の兵を用ふること太た神奇なり.奔電橫掣疾風吹く.機山[武田信玄]當時雄傑と稱せらる.猶且つ辟易として敢ては支せす.
櫪馬長嘶す妖氛黑し.鵞鴨驚起す城外の池.敵師夜に逼て千炬走る.鳴鏑亂飛して寢帷に及ふ.將軍𠮟咤して馬を騁て出つ.勢虓虎の群麋を驅るか如し.酣戰[激烈の戰爭]歸來して杯を把て飮す.怒鬚颯爽錐を立つるに似たり.醉眸酒に暎り月より明し.軍門に槊[長矛]を橫へ新詩を賦す.金谷の罰用ふる所に非す.鐡槍の號人皆知る.劍舞終宵將士醉ふ.其れ侑むは維れ何そ兜[かこ]む騮驪ならん.
爾來二百有餘歲.華冑聯綿北陲を鎭む.酒杯深く藏す寶庫の裏に.珎重伍せす尋常の巵に.今矦德を好み先績を繼く.先生を禮待するに嚴師を以てす.此盃賜て君子の壽と爲す.風前花下日追隨.先生盃を持て我に勸て飮ましむ.醉ふこと泥の如しと雖も敢ては辤せす.綠陰地に滿ち涼颸起つ.天將に晚んとして盃行遲す.盃中瀲灔何の見る所そ.新月弓を張り雲旗を捲く.杜鵑花開紅血を抹るかことし.想像す當年凱宴の時を.
春日盃引して樺石梁先生の爲に賦す.旭莊廣瀨謙.

眞木保臣 甲子試筆

猪去き鼠来る 天道新たなり.水終り木始る 最初の春.東窓日を迎ふ 雲煙暖かなり.身太和を作す第一人.甲子試筆.保臣.

伴林光平 菅家遺誡二則

凡神國一世無窮の玄妙なる者は.敢て窺ひ知るべからず.漢土三代周孔の聖經を學ふと雖も.革命の國風.深く思慮を加ふべき也.凡國學の要とする所.論古今に涉り天人を究めんと欲すと雖も.其和魂漢才に非ざるよりは.其閫奧を闞ること能はず. 右二則は.菅家遺誡中の眼目也.安政三年菊月中旬.枚岡崇福の需に應ず.伴林光平.

訥庵 大橋正順 漫書贈岩瀨君純甫歸其鄕

平居[平生]無事の時.丈夫をば婦人の操[元は守字に作る]を以て繩[つな]ぐべからざる也.其の難に臨み死を守るに及べば.則ち復た貞女・烈婦と節を比ぶ.人に接する處衆の際.君子未だ曾て廉隅の迹[行跡]を以て人に示さゞる也.其の道に任じ義に徒[うつ]るに及べば.則ち當に壯士・悍卒と勇を爭ふべきなり.安政乙卯麥秋.漫ろに書して岩瀨君純甫其の鄕に歸るに贈る.訥菴大橋順.

海舟 勝義邦 五言古詩

吾か性瑣屑を厭ひ.疎放陋質を愧つ.開口常に背汗.問吟して才の拙なるを省る.塵埃浮沈の際.既に上るも殘雪に默す.世事眼に潑して過り.轉瞬終別に到る.散材用に適はす.自笑亦自失.行藏大化に隨ひ.去就眞率に任す.書を繙く南窓の下.微を闡く秋毫の折.志を潛め道妙を窺へは.昔人宏達多し.今人何そ碌碌たる.寥寥指屈すへし.仰き看る萬古の天.晴暉す一輪の月.我か生をして寒慓ならしむ.請ふ殺傷を好む勿れと.上下瘦骨に到る.獨り對す大江の渚.空しく觀る乏しき津筏.
明治改元晩秋.海舟勝義邦.