(c) 2014-2018 武術史料拾遺 All rights reserved.

種田流鎗術の伝書

種田流雌合目録
1716.正徳六丙申年二月吉日
種田市左衛門幸忠−田口善兵衛

種田流雌合目録添状
1716.正徳六丙申年二月吉日
種田市左衛門幸忠−田口善兵衛


『種田流雌合目録』と『種田流雌合目録添状』は対を為す伝書です。これに依て家中の者たちへ下地指南することが免されました。但し、他の家中の者へ指南することは禁じられており、当時は各家中ごとに門人の階級を考慮していたものと見られます。

『種田流雌合目録』は、仮に問いを設けそれに答える五つの問答形式で構成され、最後に太刀入身を附言します。 これらの内容は下地指南を許された者を想定しており、弟子に対する心構え「其の機に應じて教を設けること乃ち師範たる人の常々心得べき事也」、また「あらゆる入身横手物は本と素鎗を怖れて作り出せり物なれば虚動せざる素鎗に勝べきことなし」と、素鎗の地位を脅かす横手物への心構え等が説かれています。 巻末の「太刀合」と呼ばれる太刀への対応は、同流において極意に位置付けられ、至極目録に「必勝 壱本」があります。種田流は元来大島流の初代から分れた流派であり、太刀合を極意とするのはその名残と云えます。「全体太刀合は十文字・長刀などとはちがひ、名も一本づつこれ有る位の事にて深き意味の有る事なり」
掲載史料及び参考資料
『丹波綾部藩田口家文書』個人蔵
『種田流雌合目録』個人蔵
『種田流雌合目録添状』個人蔵
『日本武道全集』同朋舎

種田流雌合目録


或問曰鎗術を学ひ勝負を挑
に全き勝を可取事は理より可入
や事より勤んや請其要を聞ん
答曰近代鎗術を以て世に鳴る者
多しといへとも或は心理の高明を
説て當然の事を忘れ或は適事
に執するの族は剛強に失して一向理を
捨又事理一體なるを云もあれとも事
理をのつから差別ある事を不知是
皆事理兼備せされは鎗術の至極
たる事を不辨ゆへなり其至極を
不知して何そ勝と云事のあらん
又問然らは事理一同に執行するを
善とせんか 對曰鎗術のみに不限
武藝は悉く業なれは先業を能
錬鍛て自然として理に至るを善
とす雖然人々の気質斉しからねは
業より入て至極を知もあり又理よ
りうかゝひて奥儀に至もあり應
其機而教を設ること乃師範た
る人の常々可心得事也事を修
錬したりとも能理に徹せされは心安
定ならす心安定ならされは勝を取
事不全所謂一心万法之主と
云こと是なるへし亦理漸く至ると
いへとも所業全く備らされは理
藝になりて益なし縦令は二間柄の
鍵鎗を以て理を口才にいへは素
鎗よりの勝一切絶たり子細はか
ぎにて掛横手にて張り強く面を
打又入身をなし相突をもすると云
時は左来右去負る理更になしとき
こゆれとも仕合に臨て見れは素鎗
の益大にまされり然れは業は理に
不合理は業に不應ことも有と云
ことを知へし當流に必勝と云こと
を目録の奥儀に出して必の勝
を示すにも勝んと思ふ意を先ん
するを大に戒るなり此旨を能會
得有へき事也 亦問勝んと思
ふを禁ると云こと如何とも其理
會しかたし請其目を聞ん
對曰鎗を揮て敵に向ふ者勝を
望意あれは其意則心を動して不
實然則何そ全勝を得んや右
を押んと欲すれは左動左を拂
んと思えは右虚所謂虚動する
ときは勝ことなし苟も一物心に設
則虚動也予か流に教る處は
吾人鎗をて勝負を決し緞
令死すとも勝なきにあらす但かく
いへはとて彼釋氏の不生不
滅底の空言の心にはあらす是は
此相突の内の必勝にして然も武
士の心に安住する人は勝不住人
は負る故に予か教をなすや緞令は
数十年の修練をなすとも其人
心根必勝に不住則秘奥を
ゆるすことなしたとひ一日の修行た
りとも必勝の武意に安住の人には
傳之者也且武士の心に常々住
する人と云とも仕官に暇なく空く
月日を送り又其生得病患
あるの族尤於師宜勘弁之
而盡心こと肝要也されは事理
心住兼備の人には相突の内の必
勝を四分六分を以て教へ武意一
日の修行には死而不負と云勝を
教ゆ猶口決意味深し略之
問曰入身の足速く烈しく業
をなすものに速に勝を得る事
如何 對曰入身薙刀鍵十文
字一丈の内外の物にて足速な
るを突へきこと難にあらすあ
らゆる入身横手物は本素鎗
を怖れて作り出せり物なれ
は虚動せさる素鎗に勝へきこと
なし吾流に容易全勝をなすこと
あり先入身等の稽古を見るに大
抵五六間の場にて我も人も雙
劒を不帯裳をかゝけて走り
り然も五六間のうちにして先を留れ
は早跡へ引に場なく故大形入勝
の者也左右廣場にて何の全勝
あらんや緞令場は狭くも広くもあれ
入身には全くいられ後身際にて
十分に負て勝あり乃是秘奥也
入身に入れましきとの争陽に陽
を對するにより我先動く動くと
きは前に論することく全勝を得か
たし渠は陽にして声を發し走り掛る
也陰に位して彼か發動の機を呑
て相待て然も手もとまていらせ
て勝へし猶口決意味深長也
右之外入身の損を暁すへし場によ
りて變あり足入所苅田雨雪
の時堀切闇夜場を不知船中
山川高低の地にては其心勇猛
にして進むとも走り翔りなるへからす
如此の失あるを知へし
問曰近来長十文字二間一尺
の鍵擧世是を賞す其業を見
るに或は相突の鍵は面を打或はか
け又十文字は搦みはり捨ること甚
烈し是に全勝を可取こと如何
對曰前に入身に答ることく彼か
け打からみ相突をするを禦んと
思ふ故に其間虚になりて皆其
難を防くに成て相手に誘れ虚
動する也鍵十文字より欲する
處の利をあたへ後全勝をなすへし
若鍵十文字より此理を知てあ
たゆる處の利に乗すんは即是長横
手の詮なく素鎗の意味と同前
なるに依て横手却て害となる事必
せり按するに勝負をなすには心を一
にして死に赴くさへやゝもすれは二氣に
成て動くに然るを況長を恃み横
手に便りて相突打張掛搦み
なんと思ふ心豈虚動せさるへ
けんや畢竟入身長横手は初
心の素人勝しるしはやく見ゆる
故世人是に迷者乎
 問の条件に應してあらましの思按
 を述畢愚昧の答なれは又問を
 起し給へ予却て問如何してか
 太刀の入身を論し残せる全勝
 へきものと思ひ給ふか然らは大
 なる誤也夫太刀の入身は予か
 秘奥の難の一なり子細は太刀を以
 鎗の鋭に業をなすものに向ふは勇
 猛の心也彼は鎗を大敵とすれは死地
 に落来る金鐵の心也然るに鎗を
 持者は心散地に在て失あり殊に
 太刀を持ては緞令三尺の長身
 の鎗にても鉾尖僅に悖入れは太刀
 之勝となる故に必ゆるかせにする事
 なかれ猶質問を俟て禿毫をと
 とむる而已
右者任御懇望染管城畢尤他
見憚之者也

    種田市左衛門
      幸忠(判)

正徳六丙申年
  二月吉日

  田口善兵衛殿

種田流雌合目録添状

今度雌合目録并太刀
合之御傳授申候依之誓
紙表許之畢於御右所御
傍輩中江下指南可有之候
判形於者宛所ニ御取可被成
候尤他家之指南必可為御
無用候以上
      種田市左衛門
正徳六丙申年
  二月吉日   幸忠(判)
      田口善兵衛殿
TOP