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真影山流極意之巻 訳文

真影山流極意之巻
1675.延寳三年十二月廿五日
関口伊兵衛尉定勝−吉田武左衛門尉
本文は『真影山流極意之巻』を読みやすいように書き改めたものです。表記の変更は主観を排し、『真影山流居合の註釈書-1』『大巻之覺』と照らし合せて行いました。文中に頻出する九傳の勝太刀と称する構え「付 天車 光常 無明 真至 三當 見貫 玉簾 下段」、他の構え「霞 清眼 早 一刀先之事」は別項『真影山流居合の註釈書-1』『真影山流居合の註釈書-2』に後日掲げます。

掲載史料及び参考資料
『真影山流極意之巻』個人蔵
『真影山流居合の註釈書-1』個人蔵
『大巻之覺』個人蔵

[ ]…管理人註 □…欠損 ■…不読

真影山流極意之巻
















真影山流極意之巻

     丹波國八木郡
      影山善賀入道
          清重従

      松浦弥左衛門尉
          正歳四拾貮歳此盡傳

      古江権兵衛尉
          正勝三拾九歳にて同傳

      武谷与左衛門尉
          重影三拾六歳にて同傳

      桑原十左衛門尉
          影康三拾三歳にて同傳

      関口伊兵衛尉
          定勝拾九歳にて同傳

      吉田武左衛門尉
          定治貮拾五歳にて同傳


 この外壹人も無用といえどもその品に依て相傳
 申すべき由、松浦弥左衛門より段々申し傳え候、併し極意三ヶ條は
 傳えざる由、段々唯授壱人の方へその段相傳え候、この段は堅く
 相守り申すべきものなり

一この一巻その身弟子の内唯授に相續候者これ有るに於いては
 各別左無くその身一代にて相極る儀候はゞ全く無沙汰有るま
 じきものなり、末期におよび焼き捨つべき事、縦[たと]え唯授壱人
 の弟子たりというとも吟味せしめその品に依て
 相渡すべからざる事

  右條々相背くに於いては

 梵天、帝釋、四大天王、惣て日本六拾餘刕大小の神
 祇、殊に當所鎮守并に生國氏神、八幡大菩薩、天満
 大自在天、神部類眷属神罰冥罰を相蒙るべき
 ものなり、仍て起請文件の如し

   中腰
一おさまる所もこの心なり

 是より
  兵法秘密の巻

   左右之捨
一左右の捨は必ず一足に一振りづゝつよく振り出し懸る
 物なり、必ず見當が我がみけんの方へ指し懸け来るものなり
 その時は敵に應じて左右の捨に取るべし、敵のごとくに
 振るべし、詰めるときは玉簾か下段に持つべし
 打つ時には必ず右の足にて打つものなり、その時打たずに
 鍔を用い突き込む事第一なり、空[そら]打ちをし打たせて
 巻き上げて打つ事左右の捨の習いなり、必ず上より打たぬ
 ものなり、應じて付に取るものなり、その時巻き上げて打つ事あり
 その時右の足を後へつよく引きながらかぶって成程
 身を小さく持ちて打つべし、爰にて荒波の巻き
 上げと云う、引きながら脇より打たぬものなり、両の腕の間
 に何とぞ打ち込むように心懸け第一なり、当ると思はゞ
 すぐに突き込むべし

   居切
一この太刀は敵の太刀はやに付て用立つ事多し、敵上より打たば
 唯おさえて行くべし、清眼ならば右同清眼下より打たばすぐに
 突き留め行くべし、敵打つふりにて打たずに引かば直到に
 取り成程小さくなり敵の手足を見る事専一なり、打たば
 打つべし打たずば打つまじ

   直至
一是をば一足も留めず行うべし、敵上より打たば太刀を打ち返し
 水落[おとし]を突くべし下を拂はゞ眼間を掴[打]つべし

   天車
一是は清眼に持ち一足行きて精一杯に高く取り、敵打たば
 打つべし、打たずば詰めて行くべし、上より打つとも下より打つとも
 天車ならば唯一文字に右の足を□□ず左の足にて打つべし
 敵入身ならば成程近く寄せ片膝ついて打つとける[蹴る?]と
 同じ

   無明
一是をば付に取り一足踏み右の足を出し左の肩を出し
 踏み違うて[ふんしかふて]敵の手立てを見る事第一なり、上より打たば開
 く事有り、又左の足を出しながら打つ事もあり、敵の
 太刀を打ち返す事もあり

   真直至
一是は常の直到より見當後ろの方へねせ、成程
 手の内柔らかに持ち敵の二勝を見て行くべし、上より
 打たば表の六の目のごとくに左の足を敵の左の方へ
 つよく踏み込み柄本[もと]へ打ち込むべし、下より掴[打]つともこの
 心なり、すこしも是に子細有るまじく候、此方の教えを背か
 ぬればこの太刀とり怪我有るものなり、おしえを守りぬれば
 子細有るまじく候

   
一是をば光常に持ち行くべし、敵上より打つとも下より拂うとも
 一文字に片膝ついて掴[打]つべし

   清明剱
一是は付に取り一足踏み光常のごとくに左の足をつよく
 出し前へ懸り取るべし、上より打たば左の足を引く事有り
 又右の足をつよく踏み込み打つ事も有り、又そのまゝにて
 太刀を打ち返し突く事もあり

   勝明剱
一是をば成程下段の付に取るべし一足も留める心なく行くべし
 上より打たば鍔摺りにおさえべし、下より拂う時は胸
 の間を目付に突き込むべし第一なり、打つ風情にて
 表裏引く時は玉簾に持ちておよひてかゝるべし
 付る時は切先上げて突き込むべし、その時敵必ず
 太刀を流して取り合いにかゝる事有るべし、取られじ
 となすは臆病の至り怪我有るものなり、取らせて勝負
 口傳

   真之丸橋
一是は太刀をみけんに押し当て刄の方を我が方へなし
 一文字に行くべし敵上より打つ時、左右の手の内ねぢる
 ごとくに刄を向うへ押し出し、成程上身[うわみ]にかゝって
 付留る事なり、下より打つ抔をば少しも構う事なかれ
 右のごとくに上よりおさえて行くべし

   真之車
一是は成程太刀を上段の付に持ちて敵に寄すべし敵上より
 打たばかぶって入るべし、打たぬ時は左の足を踏み入れながら無明の
 ごとくになをす風情をもてなし無二無三に右の足にて
 打り懸り、その時敵必ず開いて打つべし、左の足を踏み込み
 成程つよく鍔をたよりに突き込むべし

一是より真影一流の秘密の所敵を随がゆる
 太刀の作法の事

向釼

右剱  是三ヶ條横一文字と云う

左剱

上段  中段  下段

   是三ヶ條長一文字云う

   風傳
一是は中段に持ち成程心をしづめ静かに行くべし、敵上より
 打たば足を風前のごとくに太刀をばはっしと請け留め太刀共に
 身に押し懸り成程柔らかに行くべし、敵引かばかゝって
 行くべし、をさばかゝって行くべし、この太刀は上より打つばかりを
 大事と心懸け行く太刀なり、下腰抔を掴[打]つをば少しも心に懸ける
 事更になし、敵打ち出す時よりは足を稲妻のごとく
 はこぶ事専一なり、太刀は合わするか切るかを壱つのように
 常々心懸けるべし

   風前
一成程下段に持ち切先をば敵のゆるきへ付け心を二勝へ
 付け少しも留らず足に力みをなく行くべし、上より打たば
 左の足壱尺五寸ほど上へ引き上げながら敵の左の方へ
 つよく踏み行くべし、下より薙ぐとも右同断切先はもとの
 目付を心懸け行くべし、右の方より打つとも本[もと]の躰にて
 行くべし、位を余りに取る事あらじ、清眼にて成るとも
 右同断、付にても右同断、敵成程陽にて打たば成程
 陰にて行くべし、敵陰の打ちようを出すべし、必ず左の足
 忘るゝ事あらじ

   真無明
一是は太刀をば縦[たと]え上段・中段・下段・霞・直至・付・清眼・車
 ・見〆・下げ太刀、何れのうちに取り当て候とも、この太刀へ敵の懸
 る所が無明成るべし、我が無明を敵の方への無明になし
 我が太刀は爰にて清明剱と立て合わするを第一とするものなり
 右・左・向、是三ヶ條を成程ふさぎ行くべし、縦い敵表裏
 ともその時に應じて合わするとだに心懸けぬれば、慌てゝ
 太刀を出しぬるとも、敵表裏風情にて打ち懸りたる時は
 しづめぬる所是を以てあやまりと云う、何とぞして横
 にも竪[たつ]にも敵の太刀に合わすとばかり常々心懸け第一なり
 合わせて後勝負の所何とぞ師の心に違わざるように傳
 を請く所是を兵法の根本と云う、餘秘密に候まゝ
 是には記し申さず候

   夜中取籠者打時事
一常の提燈[ちょうちん]をたゝみ火さきを向うへ向けて
 持つべし、必ず龕燈火に成るものなり、加勢する事素槍柄
 短きに塩首を三尺手拭いにて巻き、提燈
 持ちの右の袖の下より鑓を出し加勢すべし、その時必ず
 提燈持ちに打って懸るべし、下より突きたおす
 事専一なり

   別之一二
一是は敵に向いて脇指を抜き、刀は抜かずに鞘まゝ持ちて行くべし
 打つ時十文字に組んで請けて突くべし、一刀ならば鞘を右
 の手に持ち右同勝身

   影之一二
一旅中ねこま[猫間]扇子・実手・九寸五分抔を入れて行くべし
 抜き合わせ敵の太刀に構わず我が太刀を上取に取り打つべし
 敵の太刀腹に當りても怪我これ無く候

   居合抜太刀打の名仁
一是を討つ時座敷になをし成程静か成る躰にもてなし
 成程知略をめぐらし打つ事第一なり、誠の道理にては
 打たれざるものなり、無刀にて寄せて打つ事有り、討つ事の手立
 草箒[ぼうき]の中へ太刀を仕込み、御馳走に掃除の
 風情をもてなし討つ事有り

   向詰の事
一敵太刀を抜き中段より上段までのうちに構え居り候
 所へ仕懸けの事、脇指の反りをうち下緒を成程
 腰に結い付け刀をば帯ゆるく指し下緒を左の手
 に持ち右の手にて脇指の柄をとり左の方の肩を敵
 にみせ行くべし必ず打つべし、その時刀をかつぎ太刀を
 受け留め脇指を抜きながら刀の下緒を放し
 敵をとらいつく事第一なり

  是より
   居合唯授壹人の事



一腹より抜き打つか又は抜きたる太刀にて打たるゝ時は刀にても
 脇指にても栗形の根をとり我が首へ押し付け左の方
 より廻るものなり、必ず鍔本[もと]へ切り込み有り、其その時刀にておさ
 え候はゞ脇差にて抜きながら突くべし、是は往来にて
 も座敷にても用いる事なり

一狭き所にて打者の節は大脇指を刀の代りに指すものなり
 その時の指し様には帯に大事有り、常の帯にては
 後つかえ[支える/つかひ]抜き悪しきものなり、下には常式の帯の上
 に三尺手拭い帯仕りそれに指すものなり、打つ時に帯より
 後ろの方にて鞘を取り壱寸ほど抜き帯を押し
 切りぬれば抜も早し鞘も用立つものなり、但しこの心懸け
 用心する時は広き狭きに限らず用いる事第一なり

   一文字の事
一敵居合膝にて構え居り申す所へ仕懸けの事、脇指の
 下緒腰に結い付け刀を左の手に持ち右の肩を敵の
 方へ向け行くべし、敵上より抜き打ちに討つとも脇より拂い抜き
 に抜くとも、又下より抜き上げ給うとも構うことなかれ、刀の
 柄を敵の胸板につき当て候ごとくに成程身を小さく
 構え抜くと思う時唯一筋に敵を押し返すごとくに
 仕懸け給う事第一なり、敵必ず振り上げんとする事すべし
 その時構わず右の手にて持ちたる刀にて敵をおさえ左
 の手にて脇指を抜け付ける事第一なり、脇指はその節に至り
 反り高く小さき脇指用いる事第一なり、必ず教えを背く事
 なかれ

   運の見様事
一今宵我が身に何事も有らんと思う時左右の手
 の内中指を折り残る四つの指をたゝみて
 押し当て壱つ宛[づゝ]上げてみるにその時薬指いかように
 上げたくとても上らぬものに候、薬指上り候
 節は必ず我が身に怪我有るものなり、その節用心を専らにすべき
 ものなり

   毒飼に合わぬ事
一膳に向い左の腰より股へ痺れ候事有り、その節は
 必ず食すべからず、そのもの毒に疑いなし、何とぞして
 その座をのく事肝要なり

   中腰極意
一本膝表の通りろくに居り候ても目付は敵の持ちたる
 大小の鍔きわへ切先を抜き付くこと思い居り候事
 第一なり、上より抜き打ちに打つとも脇より拂い抜きに抜く
 とも中腰の位抜くとも右の目付へ抜き付け候得ば
 必ず逢う事なり、敵の太刀上にても下にても我が身へ
 押し付けさせて苦しからず候、綿入などにては少しも
 通らざるものなり、袷・単物・帷子に候とも必ず
 我が身へは当らざるものなり、左の方の手にて敵の太
 刀の峯を押さえ付けて敵を突き留め給う事第一なり
 若し怪我仕り候ともその手にてはあやまりに罷り成らず候
 一寸の負け九分の勝ちとこれを云うなり

  是より
   兵法唯授壱人事
一太刀の位を取る時は一に付、二に天車、三に光常、四に無明
 五に真至、六に三當、七に見〆、八に玉簾、九に下位[下段]
 是を九傳の勝の太刀と評するなり、上段の付にだに
 持つ時はこの太刀共に一足に分々に直すとも我と我が身
 と直るものなり、敵との間遠き時はこの事をはなす
 ことなかれ、付に取る時は敵のもようをみる事なり、天車
 の時は敵の色をみる事是を紅葉の目付と云う、光
 常に取る時は眼の間を打つとみる事是も眼間の目
 付と云う、無明に取る時は敵の左の肱を見る時
 是をゆるきの目付と云う、三當に取る時は手の内是を
 二勝の目付と云う、見〆に取る時は敵の胸の間へ心を
 付け見る事是を万字の目付と云う、玉簾に取るときは
 敵の太刀真中ほどに合わすと思うが剱當の目付と云う
 下位に直してのちは縦[たと]え目付は心になくとも敵の打つ
 太刀の見ゆるに依て是を無の目付と云う、手詰九つと
 云う時はこの心をはなさず太刀取稽古の時分持つものなり
 我と位を取る事見出す物なり

一下段の太刀手強き[てつよき]と印し置きたる子細を、如何に敵たゞ
 一打と顕れて見ゆる時、縦[たと]え二勝ゆるき氣指[きざし]見えども
 合う道理を以て強きとす、腰のゆれ合い膝の働
 きみる時は必ず脇より出る太刀目の下に見るゝものなり
 その時切先を敵の氣指へ付け、鍔を敵の二勝
 へ付け行く時は見るより強きとも申すなり、如何様に打ち給うとも
 打つだにすれば合わんと云う事これ無く候、併し付・清眼表裏
 三ヶ條有るに依て二勝ゆるき氣指見る事第一なり
 と申し傳え候、この太刀にては一足も留りてはあやまりの
 上のあやまりという、子細は留りぬれば必ず敵位を取り
 直すものなり、何とぞ敵太刀を直さぬうちに行く
 事第一なり、又敵打たずば太刀を少し引き上げ真之丸橋の
 ごとくか三當・玉簾のように取るべし、その時は
 目を離さず敵の二勝を見る事第一と云う、必ず引打
 かその躰にては打たんと云う事これ無く候、その時合うと合
 わんと無二無三に無念夢想に打ちて突き込むべし
 是を第一の勝という

一水月とは上段・中段・下段、この三つの内の下段より出るを水月と
 云う、敵を月とたとえ我が身は水と思い行くべし敵の
 太刀月のごとくに我たひえあき間もなく切り懸るとも水は
 切りても疵のなきものなり、この心にて行くを第一の勝という
 是よりはみな合太刀の僉儀なり、たとえ唯授たりというとも
 是より極意相傳は勿論、この書物他人は申すに及ばざる事、親子
 兄弟たりというとも開く事堅く禁制たるべきものなり

一師匠の教えを背き無躰に開き給はゞ日本六拾余州
 神々その人の当所鎮守御罰を蒙るべきものなり

 南無鹿嶋大明神

 南無摩利支尊天

 南無愛岩山大権現

  是より
   極意三ヶ條

   心明剱


一下段とは成程太刀を下げ剱当を敵の方へなし合わせ
 勝つ、我が身には当らざると思い行く所第一なり、縦[たと]え上より
 打ち腰を薙ぎ逆に打ち表裏清眼に取付に取り車に
 直し候とも、唯一文字に下より合わせ、その時勝つを下段と云う
 本の氣に返り納まる所の第一の勝身と善賀入道
 清重申し傳へ候、この心平生我が身には着こみを着たると
 思う所は至る所の誠なり、敵の太刀我が身には当りても
 切れざると思い行く事必ず忘れまじき事、この太刀は
 心を放さゞるに依て真の付と云う、又心明剱とは
 成程明らかと思いぬるに依て心明剱とも云う
 体やぶりとは合うと突くに依て体やぶりとも
 いう、必ず一流納まる秘密この事なり、心眼さそく本[もと]といえども
 稽古なき者には至らざる間、稽古の所を誠の
 本[もと]という、是にましたる相傳有るべからず、必ず相守らざるに於いては
 あやまりの上のあやまりという、納まって一の刀

   真之摺足


一敵抜き打ちに打つとも、又下より抜き込むとも、又抜き持ちたる太刀にて
 上より打つとも薙ぐとも、居合の方より仕懸け秘密の事
 何とぞしてその太刀に合うように事心懸くべし、合わせて後
 勝つ事の是抜き合いたると思い持ちて敵の白刄を我が躰へ
 押し当て苦しからざる事有り、合わせて後は必ず敵の太刀よはるものなり
 その時押し懸けたる分りて綿入の事はさて置き、単物[ひとえもの]
 にても通らざるものなり、この心を常式持ちようはいつも
 我が身に着込を着たると思うが専一なり、又抜き合わせて後
 居合の方より切ると云う事これ無く候、唯突き留めるを本[もと]と
 善賀入道清重より申し傳え候、必ずこの心常に持ち給うが第一なり
 次に抜きたる所へ行く時は刀脇指をさし、刀の栗形の
 根を左の手にて取り少し抜き出し脇指の柄に手を懸け
 一文字に行くべし、必ず上より打つべし、その時刀の柄に
 ておさゆるより早く脇指を抜き込む事、是を秘蜜の
 勝という、この仕懸けは往来にても座敷にても又居たる
 所へ行くにも吉、亦一刀の折りは上にても下にても合うと
 我が身に敵の太刀受け留めて我が太刀にて敵を随
 いぬるを専一の勝[かち]是なり、居合の水月とは是を
 云う、必ず教えに任せ行く事本意なり、又抜き合わせる太刀にても
 斯くの如し、是を唯授壱人と云う、是よりは入合の剱と
 申して見出すものなり、若しくわんほうならざる折り、師匠の
 方より傳を請く事本意と善賀入道より申し傳え候
 是にましたる勝身は抜かず抜かせず納める所を勝と
 いうなり

   合太刀之大事

一この内にて我取る得手太刀、敵に向いて誠の打合する
 ものなり、縦[たと]え上下逆に打ちたるとき何とぞして合わせる心第
 一なり、合わせて後は敵の太刀を上下左右のきらいなく
 我躰へ我と受け留め我が太刀にて敵を亡ぼす所を
 真影一流の誠の秘蜜と善賀入道より申し傳え候、是に
 少しも疑いの心有るにおいては縦え太刀打五十年
 稽古有るというとも、勝つべきよう堅く有るまじくと申し傳え候
 是を以て真の身強剱と合太刀の秘蜜、この事なり
 是より極意をば入合の剱と申して口傳の所なり
 若し至らざる時に師匠より傳授請けるものなり、何とぞして
 我が一分にて見出す所を妙と云うなり

   入合之剱


           関口伊兵衛尉

  延寳三年十二月廿五日  定勝(印)

      吉田武左衛門尉殿


 是より奥は唯授たりというともその品に依て
 堅く相傳申すまじきものなり、若し猥に相傳するに於いては

梵天、帝釋、四大天王、惣日本六拾餘刕大小神祇、殊に当所
鎮守并に主國氏神、八幡大菩薩、天満大自在天
神部類眷属、神罰冥罰を相蒙るべきものなり仍て起
請文件の如し

   心通手眼
一この太刀の構えは何れにても一分に取り得手候太刀を
 心通手眼と云うなり、一足も留らず敵に仕懸け行く事を第一と
 す、付・清眼は申すに及ばざる事、敵如何様に構え候とも少しも
 留まる事なかれ、両方太刀の中にて打ち合い候節、我が
 身を小さく左の足を踏み込み、敵の太刀我が躰
 へなにとぞ押し付けさせ、その太刀引き上げさせずに勝負
 する事、是誠の入合の剱なり、但し敵の太刀生るゝ
 所をおさえて後、我が躰へは押し付け給う事なり、居合
 にても兵法にても摺足有無の合太刀、心通剱
 と極意申し候えども、敵の太刀の白刄を我が躰へ請け
 留めて敵の随がゆる事これ有るによって入合の剱と
 表したり、印可までには傳える法に候えども、唯授壱
 人の分ちこれ無きによってこの段は印可へは堅く
 秘事仕り候、前書にこの段印し候えども、猶々深く思わせん
 ため此くの如く奥に印し唯授壱人に相傳せしめ畢ぬ
一此くのごとく相傳せしむといえども、居合兵法は死ぬ所の稽古なり
 けり、神を守り仁儀禮知を調え、佛をうやまい申す所
 是を根本と云う、堅く相守り申す所真影山流の秘
 蜜段々納める所の秘事なり





   夫兵法當流傳者以楊
   為言風向柳糸吹則
   靡對何争事依是雖
   至洪水根正則本来加之
   作剱不作剱會戰八荒
   平也
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