武術史料拾遺卷一 傳書 (c) 2014-2020 因陽隱士 All rights reserved.


竹内流 捕手腰廻之事 一卷
帋本墨書 18.2 × 135.1 cm 慶長拾參年二月廿四日付 個人藏 美作國松野家文書之內
竹内流捕手腰廻之事. Edo period. dated 1608.
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譯文 Translation

竹内流捕手腰廻之事
 [中畧]

右貮拾五箇條腰廻.粹家の捕手五つ.某愚親幼よりして武道を專らとし.他を抛ち自らを刻み種々鍛鍊すと雖も.更に以て奇特無し.他流の捕手數百流を學ふと雖も.噫愚なるかな.繫ける犬の柱を廻るか如し. 倩[つらゝゝ]事意を案するに.愚五つの取手に於ては.異國樊張の術利を超ゆるへし.其の故は愚親忽然として.首日天文元年六月廿四日.愛宕山に信して他に異なる刻.何國とも無き山伏尋ね來り.捕手を懇望せしむ.右五つの取手之れを相傳し訖ぬ. 奇特~變.隨一至極.短才の及ふ所に非す.其の後生國無く罷り歸り.終に行末を知らす.尓[それ]以來愛宕山より御相傳疑ひ無き此の旨.御懇望に依りて.少しも相殘さす相傳せしむるものなり.
慶長拾參年二月廿四日.
日下捕手開山.竹內藤一カ久勝(在判)−松野主馬頭殿參る.


筆者註 Annotation

● 帋二枚繼.失元裝.今無裝.御一新後作州垪和の近クに住した松野家舊藏文書.
● 某愚親・・・竹內久盛.竹內久勝の父.
● 樊張・・・高祖劉邦の臣.樊噲と張良とを指すもの歟.
● 竹內藤一カ久勝・・・竹內流二代目.常陸介.關白豐臣秀次公に仕ふ.ェ文三年九月十日歿.
文祿五年武者修行を終えて美作國垪和に歸クし角石谷に道場を構え.元和四年嫡子久吉と上洛し京キに道場を構えたとされる.<美作垪和ク戰亂記―竹內・杉山一族の戰國史>
● 松野主馬頭殿・・・小早川秀秋公の臣に松野主馬[名重元]という者あり.然れども本文書の松野主馬頭と同一人物なる歟明らかならず.


新天流 初卷・一流之卷・灌頂之卷 一卷
帋本墨書 15.1 × 300.0 cm 慶長拾七年子二月吉日付 個人藏
新天流初卷, 一流之卷, 灌頂之卷. Edo period. dated 1612.
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譯文 Translation

今此新天流は昔日是れ人の師傳ふる所に非す.~變靈妙の釼也.然る間古來ゥ流窺ふ所に非す.天下無雙也.因て茲に雌雄を決すれは.則ち勝利眼前に至れり.位を學ひて知るへし.

新天流初卷.
(在印)南無五拾餘尊守護所.
一.右釼
一.左釼
一.無上釼
一.左右釼
一.右眞之位
右條々.千金にても傳ふ莫れ.之れを祕すへし.
 [中畧]

慶長拾七年子二月吉日.
u田彌次右衞門尉正次(在判)−越前少將樣へ進らせ上る.


筆者註 Annotation

● 帋七枚.失原裝.今分各帋.而收桐箱.
● 新天流・・・齋藤傳鬼の高弟搏c彌次右衞門正胤に始まるとされる.搏c正胤の經歷は詳らかでなく.越前北ノ庄の太守松平忠直の家臣というほか判然としない.高弟の小山田貞重は搏c正胤と同じく松平忠直の家臣にて高七百石.松平家の改易後はその子小山田重正が米澤の上杉家に.小山田盛信が會津の松平家に仕えたとされる.小山田貞重は自己の工夫を加え眞天流と稱したと云われる、またこの流れとは別に.信太勝政[齋藤傳鬼の高弟信太勝長の子]や上遠野秀門もまた新天流と稱したと云われる.なお小山田の系も新天流と稱することあり.
● u田彌次右衞門尉正次・・・齋藤傳鬼の高弟搏c正胤と同一人物歟.明らかならず.
● 越前少將樣・・・松平忠直公.越前の太守.結城秀康の長子.東照~君の孫.

● 天流・・・齋藤判官傳鬼 相州の人なり。北條氏康に仕え、金平と號す。壯年より刀槍の術を好み、鶴岡八幡宮に參籠し、靈夢の端有るにより、潛[ひそ]かに天流と稱す。又天道流と曰ふ。從遊の士若干傑出たる者多し。<武術流祖錄>


大坪流 手綱の目錄の事 一 一冊
帋本墨書 慶長拾八年六月吉日付 個人藏 鳥取藩依藤家文書之內
大坪流手綱の目錄の事一. Edo period. dated 1613.
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譯文 Translation

 手綱の目錄の事 一
一.馬を乘に第一の口傳.力革の尺を知るへし.かさかけと常の時は六寸なり.但ふとれる人なとには.五分壹寸のちかい之れ有るへし.又はれの時は八寸なり.口傳在るへし.
一.口を引く時の場の事.
一.乘手厩場の事.
一.いまた心も知らぬ馬を.相口を尋ね候て乘り候事.
一.いち繩の事.つねのことく繩をさして.二人して引く時定いる也.
 [中畧]

一.しゆもんの事.
一.とくたうの歌の事.
一.是なる事は是なれとも.是ならさる事は是ならさる事.
一.き事.あいより出てあいよりふかし.氷はみつより出て出て水よりひやゝかなり.
一.さとりゝゝて末悟におなし.
一.易々難々.
 以上貮百五拾五ヶ條

右此一卷は.常に相傳申す仁之れ無きと雖も.年來別て御懇望の間.存ひを去ること難く.調へて進め入り候.御祕藏肝要に候也.
慶長拾八年六月吉日.
荒木十左衞門尉元滿−依藤牛介殿.參る.


筆者註 Annotation

● 荒木十左衞門尉元滿・・・攝津國花隈城主 荒木志摩守元Cの四男.父より大坪流の馬藝を相傳す.舊知のK田筑前守長政公の許に身を寄せ.食祿千二百石−千五百石.後ち馬術の達人として知られ.將軍コ川秀忠公の御直參に迎えられ.その馬術指南役となり采地千五百石.名聲四海に遍く.世に荒木流と稱される.
● 依藤牛介殿・・・名長守.依藤長安の次男.慶長十六年K田筑前守長政公に聘せられ家臣となり.ゥ公子に馬術を指南する.


夢想願流 鑓之卷 一卷
帋本墨書 12.6 × 186.8 cm 慶長十八稔癸丑九月吉日付 個人藏
夢想願流鑓之卷. Edo period. dated 1613.
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譯文 Translation

夢想願流

表鑓の大事
 [中畧]

此鑓は他流に覗ること無し.則ち愛宕山大權現夢中に御相傳の大事也.右三ヶ條の鑓.唯授一人.ゥ流ゥ具足に懸けて勝利を得ること疑ひ無し.假使[たと]ひ千金を荷ふと雖も.志淺き人に努々傳ふへからす.但し艶i七日.其上相傳すへき者也.
慶長十八稔癸丑九月吉日付.
信州埴科住人 松林無雲−上亟無功−登坂C三カ.


筆者註 Annotation

● 覗・・・窺い見る.探し視る.別巻に「臨」とも記される.
● 松林無雲・・・夢想願流の祖.


夢想願流 蝙也齋行狀 一卷
帋本墨書 18.7 × 256.4 cm 元祿六年癸酉十二月二十四日付 個人藏
夢想願流蝙也齋行狀. Edo period. dated 1693.
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譯文 Translation

 蝙也齋行狀
松林左馬助永吉.別稱無雲と曰ふ.晚年隱退して蝙也齋と號す. 父松林權左衞門永常.世[よゝ]上杉家に屬して.而して景勝に使[仕]ふ.文祿二年癸巳の歲を以て.蝙也を信州川中嶋松代に生[むめ]り. 少より志を劍術に屬[はけま]し.常に自ら以爲へらく.夫れ劍術は兵家の先務也と. 士爲る者は學はさるへからす.遠く劍術の濫觴を原[たつ]ぬるに.其源は蚩尤より起れり. 昔葛天廬の山發[ひら]けて.而して金を出す.蚩尤受けて之れを制[製]して.以て劍鎧と爲す.此劍の始り也. 爾來天子より以て庶人に至るまて.之れを用ひさると云ふこと無し.
 [中畧]

又每日念佛を唱ふこと六萬返.疾病なりと雖も易へす.彼の水鳥樹林念佛念法と曰ふか如きは.祖師の禪法也.一念彌陀佛滅滅無量罪と曰ふか如きは.如來のヘ法也. 梁山に頌有り曰く.金烏東上すれは人皆貴ふ.玉兎西沉すれは佛祖迷ふ.擧し看ん禪也[や]ヘ也[や].本と無二.斯の翁知んぬ. 茲に通達す.ェ文七年丁未の歲閏二月朔日.行年七十五臨終正念にして卒す.洞雲月公と曰ふ.

元祿六年癸酉十二月二十四日書之


筆者註 Annotation

● 蝙也齋・・・夢想願流の祖.
● 昔葛天廬の山・・・昔葛天廬之山.發而出金.蚩尤受而制之.以為劍・鎧・矛・戟.此劍之始也.<管子:數地篇>
● 蚩尤・・・黄帝の頃の諸侯.始めて金属兵器を発明したとされ.また戦の神ともされる.


片山流 免許之卷 一卷
帋本墨書 17.5 × 55.9 cm 元和貳年卯月吉日付 個人藏 肥後熊本藩星野家文書之內
片山流免許之卷. Edo period. dated 1616.
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譯文 Translation

一.當流居合太刀の事.貴殿數年執心遂けられ.其の上手前次も我等弟子多しと雖も.一段と勝り餘る御器用成る故.我等手前相殘さす御相傳申す者也. 何方にても居合執心の旁[方々]之れ在るに於ては.堅く誓詞をさせ.其上弟子の心を引見し.僞り之れ有る者に於ては.極意なと相傳成され候事は.御無用にて候. 殊に御手前彌夜白共に御心を懸けられ.他流の理方よりも非無き樣.御心持肝要たるへく候.仍て免狀件の如し.
元和貳年卯月吉日.
片山伯耆守久安(在印・在判)−谷忠兵衞殿.


筆者註 Annotation

● 肥後細川家の臣星野家舊藏文書.帋一枚.卷子裝.元裝を失い昭和時代の裝潢.星野家は伯耆流居合・四天流組討・楊心流薙刀の師役を勤めた.
● 片山伯耆守久安・・・片山流の祖.周防の大內家に仕え.後ち安藝の吉川家より十人扶持十俵を給されたと云う.
● 谷忠兵衞殿・・・細川侍從忠利公の臣.知行五百石−壹千百石.


片山流 居合序・免狀・歌之書・高上極意・居合目錄・印可之狀 一卷
帋本墨書 15.8 × 420.9 cm ェ文拾二壬子曆十一月吉日付 個人藏 若狹小濱藩堀口家文書之內
片山流 居合序, 免狀, 歌之書, 高上極意, 居合目錄, 印可之狀. Edo period. dated 1672.
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譯文 Translation

 當流居合序
夫れ當流の居合と謂ふ者は.古今絕唱也.我幼少より武道に志すこと有りて.他流の利方數百流の目を學ふと雖も.座中に勝負を決すること無し. 慶長元丙申曆正月.吉日良辰を擇みて.而して身をCめ心を正して.而して愛宕山に參籠すること七日七夜.時に夢中に一老僧の來る有り.予か枕子を推して曰く.汝武道に獅゙爲に茲に來る.嗚呼深きかな.其志有ること. 我感激に勝へす.爾[なんち]向上の一流能く之れを用ひれは.則ち途中受用す.縱ひ異國の樊噲・張良に逢ふと雖も.其勝つこと必せり.況や又吾朝に於てをや.此事祕すへし々々.言ひ訖りて見へす. 夢覺めて.而して之れを思へは.誠に幼き夢中の如し.今此儀に到れは.一點更に違はす.是を以て之れを世人に傳ふ.
 [中畧]

此一卷.居合陰陽云云.父母は主に十二の因緣を表す.十二ヶ條.之れに善惡を加えて穿鑿して勝利を糺す. 唯是當道の稍意のみ.胷臆に藏して末世に傳ふ.然りと雖も貴殿御執心の深厚に感し.拙者存知の通り.少しも相殘さす傳へ申す者也. 若し此儀を僞る者は.日本國中六十餘州大小~祇.別て愛宕山摩利支尊天・八幡大菩薩の御罰を蒙るへき者也.仍て印可の狀件の如し(在印).
ェ文拾二壬子曆十一月吉日.
片山伯耆守藤原久安−宮田勘兵衞尉藤原宗成−C水源太夫尉藤原■■(在印・在判)−齋藤五右衞門尉殿.


筆者註 Annotation

● 卷子裝.六卷を一卷に製す.この中の『免狀』は.前出の『片山流免許之卷:元和貳年卯月吉日付』に類似する。
● 則ち途中受用す・・・「會則途中受用.如龍得水.似虎靠山.不會則世諦流布.羝羊觸藩守株待兔.」と.『碧巖錄』の一節.


井上流 小筒構堅之圖 一卷
帋本墨書 22.3 × 845.1 cm 寛永三年六月日付 個人藏 松平家舊藏 湯淺藤紫樓舊藏
井上流小筒構堅之圖. Edo period. dated 1626.
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譯文 Translation

構堅之圖

一.第一思無邪の構.
   角に目を付け.腰のおれぬやうに惣身を直にかしこまり.鐵炮を角通にすくに臺へのすへし.
   初め中段.髮のゆひきははる心持也.

一.第二同堅.
   息相火蓋を取る時.ゆるゝゝと呼息し.一つ鐵炮を顏につけんと思ふ時.息を込めて頰へ付け堅める時.つき出し有るかなき程の息を詰めて.星の分を見合せ其息にて放つ也.
   右の手のうち.臺のすこし下へまはるやうに下四つの指し樣の所うけて持ち.人さしゆひ直に腕首おれぬやうに持つへし.
   左の手のうち.頰へ引っ付け.顏にて押す心持也.引かね落す時.心を違はず見付けたる眼そのまゝにて.いつおつるともなく一毛を切る心持也.
   髮のおひきは少はる也.腰をそらす心持なり.
 [中畧]

一.第廿一膝臺の堅.
   目當を付上け.少一拍子に放つへし.心持口傳.

一.第廿二立放の堅.
   浪に目當を付上け.一拍子に放つ也.心持口傳あり.

一.櫓の押し樣.
   櫂のさしやう.足を揃へ手先秤にてをすや前に放つへし.櫓・櫂を押しはなすへし.

夫れ鐡炮は其の急速なること飛鳥に過く.故に支那號して鳥銃と曰ふ.其の擊破すること雷霆の如し.故に又名[なつ]けて雷火砲と曰ふ.誠に軍器の大用也.知らさるへからす.今其の遠く到るを取りて.中[あた]るへきの術を撰み一書と爲す.蓋[なん]そ其の祕するもの泄[もら]さゝらんや.法に曰く.軍勝の術先に傳ふるへからさる也.若し其の人に非されは.之れを吿くへからす.爾[しか]りと云へり.
ェ永三年六月日.井上外記正繼(在印・在判).


筆者註 Annotation

● 松平家後裔舊藏文書.卷子裝.原裝:藍色地に三つ葉葵紋草花散文様金襴の表裂.元は御三家舊藏歟.
● 小筒構堅之圖・・・類本を見ず井上流草創期のものか.正保三年に著される『調積集』の圖示と考えられる.
● 井上外記正繼・・・池田輝政公の臣井上正俊の子.祖父は豐臣秀吉公の臣にして播州英賀の城主井上正信.大坂兩度の陣に戰功あり.將軍コ川秀忠公・家光公に仕え.屢々御銃砲を製して獻上する.ェ永十五年御鐵炮役となり知行千石.正保三年九月十日歿.
當文書の二ヶ月前.ェ永三年五月.將軍コ川秀忠公の上洛に隨從す.


疋田流 強弱之卷 一卷
帋本墨書 17.6 × 281.7 cm 寛永拾五年十二月吉辰付 個人藏 備前岡山藩薄田家文書之內
疋田流強弱之卷. Edo period. dated 1638.
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譯文 Translation

疋田流强弱之卷.
先つ强弱一卷奧意なる者は.敵能く位するを以て.打ち向ふと雖も.其行に乘じて勝ちを得る.千金といへとも傳ふる所莫し.深く祕すへき者也.
 [中畧]

右强弱の勝負.長刀・十文字・太刀・鑓合.大形の口傳と號す.之れに稽古する所以を懇ろにして明記する也.
寛永十五年十二月吉辰.
疋田栖雲藤原景兼−藤原景吉朝臣 疋田傳兵衞S−源朝臣 ^多伊折佐−宮部源太夫−冨田伊兵衞正次(在印・在判)−薄田兵衞門殿參る.


筆者註 Annotation

● 備前池田家の臣薄田家舊藏文書.卷子裝.原裝:紺帋金泥草花文表帋.
● 之れに稽古する所以を懇ろにして明記する也・・・原文「懇之所以稽古明記也」には幾つかの読み筋あり.假に上記の如く譯す.
● 冨田伊兵衞正次・・・備前少將池田光政公の臣.高三百石.
● 薄田兵衞門殿・・・備前少將池田光政公の臣.高四百石.兵衞門或は兵右衞門とも記す.


疋田流 向上極意之卷 一卷
帋本墨書 15.0 × 160.2 cm 寛永拾五年十二月吉辰付 個人藏 備前岡山藩薄田家文書之內
疋田流強弱之卷. Edo period. dated 1638.
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譯文 Translation

疋田流向上極意之卷.
先つ兵法なる者は.摩利支尊天の祕法也.敵に向ひ一身を惜します.寔[まこと]に數師を捕りて.寸暇を得す.常に摩利支尊天に祈誓して.鍛鍊の功を經れは.彼れ自[おのつか]ら敵の行を見出すに着く. 有に非す.無に非す.何そ無二.亦無三.是實也.一極に一鑓を以て勝負を決すること疑ひ無し. 此卷相傳の時.七日潔齋艶iして.古法の如く壇前に於て.極意の鑓傳授有るへき者也.
 [中畧]

灌頂の卷見へ來るに於て.曲勝・曲勢・殘勝・九重・玉飛を以て勝つと雖も.勝負に向ふの極意は.高名疑ひ無きに因て.印可の鑓と名つく.唯授一人の大事.深く祕すへき者也.
寛永十五年十二月吉辰.
疋田栖雲藤原景兼−藤原景吉朝臣 疋田傳兵衞S−源朝臣 ^多伊折佐−宮部源太夫−冨田伊兵衞正次(在印・在判)−薄田兵衞門殿參る.


筆者註 Annotation

● 備前池田家の臣薄田家舊藏文書.卷子裝.原裝:紺帋金泥草花文表帋.
● 數師を捕りて・・・數人に師事すること.
● 彼れ自ら敵の行を見出すに着く・・・『新陰疋田流鎗甥B記』は.「彼目著敵行も見出すに於て」と「自」字を「目」字に書く.「着」と「著」とは字義同じ.「目」と「自」とは中途で表記を違えたもの歟.


疋田流 諸學集 一卷
帋本墨書 17.7 × 229.9 cm 江戸時代 貞享四丁卯年十月吉辰付 個人藏
疋田流諸學集. Edo period. dated 1687.
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譯文 Translation

 諸學集序
夫れゥ學集一撰五箇の兵器を澁閱すれは.事理善を盡し美を盡せり. 盖し多氏なる者の流は.ゥゥ流を試み.疋田を表とし.摩口傳を裏とす. 五行の器を以てヘ化し.件を逐つて齊し.正に他家の親疎.偏倚の行無き也. 故に直鑓・十文字・鑰・長刀・太刀.此五行の器を以て敵に向て.意はさりき. 鋒[きつさ]き應に轉化自由なるへし.呼々として廣い哉[かな].偉いかな. 遠方より來る士.專ら五器に手を熟し手熟するときは.則ち理其中に有り. 更に虛の遠く深きに驅すること勿れ. 事理を翫し妙合ふときは.則ち天下の士.奈[いかん]そ敵すること無し. 實に武家の權輿也.敢て之れを忽[ゆるか]せに爲すへけんや.之れを忽せに爲すへけんや.

 ゥ學集目錄
 [中畧]

人にかたんとも思はざれ.負んとも思はず.たゝ何となき心より極意のこゝろにいたらんぞ. 理をきゝて事は入らす.物とおもひなば盲めくら馬に乘て穴に落つるがごとし. 事利車の輪の如くならざれば.上手にあらず.兩輪のごとくなるは.數年の稽古の功の積む所なり. 此卷よく得心して師傳の外を工夫すべし.思案の內より極意におのづからいたるべし.至て此卷を放たん哉.

貞享四丁卯年十月吉辰.
疋田豐五カ入道棲雲−^田伊折佐−^田九カ兵衞−多羅尾文S−岩田文平家好(在印・在判)−坪田萬右衞門殿.之れを相傳す.


筆者註 Annotation

● 澁閱・・・正しくは「涉閱」歟.
● 盡善盡美・・・元の出典は唐代韓愈の『與崔群書』.「比亦有人說足下誠盡善盡美.抑猶有可疑者」.後ち事物極り完善美滿なるを云う.或は善美兼ね盡すと.譯文は點に從う.
● 多氏・・・多羅尾文Sを指すと考えられる.
● ゥゥ流を試み・・・原文「ゥ試ゥ流」.脱字誤記歟.
● 偏倚・・・偏重・偏向.
● 呼々・・・風聲の形容.
● 權輿・・・濫觴.


念流正法兵法未來記 入門卷・獅子卷・豹卷・象卷・龍卷・後序 一卷
帋本墨書 江戸時代 個人藏
念流正法兵法未來記 入門卷, 獅子卷, 豹卷, 象卷, 龍卷, 後序. Edo period. dated, early 17th century.
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譯文 Translation

 [前畧]
念流正法兵法未來記.小笠原東泉坊源甲明謹みて序す.
○獅子の卷.
夫れ劍は金剛全躰三摩耶の尊形也.之れを喚ひて三尺の寶釼と號す.五塵六欲の煩惱を截り斷ち.空中に向ひ之れを振へは.則ち塵沙無明の魔黨を降伏す.軍中に向ひ之れを振へは.則ち三軍之れか爲に大に敗る.或は時に巖窟に入り猛虎を斬る.或る時は滄溟に臨み蛟龍を截る.之れに加へ金鞭を爲り畜趣を穢土に制す.以て行へは自由三昧なり.
高祖奧山念.相陽壽やW寺に於て~僧より過去現在の二術を傳ふ.過去の術は魔法也.亂故等の流也. 現在の劍術は東西南北のゥ士之れを傳へ.家名を立つ.世[よゝ]擧て知る所也. 源叉那王以後の兵法は.皆以て念の末流也.奧當家未來記の旨趣を見[あら]はさす.
念和尙年老て.而して大日本國信州伊那郡波合山に到りて一の弟子有り.慈三と號す.時に六種震動し.惡鬼飛來して.而して慈三を奪はんと欲す. 念阿口に呪を唱へ.手に釼を提[ひつさ]け.過去現在の兵術を以て戰ふと雖も.渠[なん]そ遂けさらん.天を仰き地に臥す. 七八歲の童子面前に來りて.ヘ外別傳を述ふ.手を以て手に傳ふるの密術なり. 念會せすして.而して劍を取りて.童子に向ひ打ちて問て云く.ヘ外別傳の意旨如何と. 兒童忽ち狗に變す.劍を提け起ちて丁と打つ.念劍下に大悟す.
 [中畧]

摩利支天−正天狗−相馬四カ平義元 奧山念−赤松三首座禪師慈三−小笠原東泉坊源甲明 大膳大夫武曾入道朝氏−同新次カ源氏綱 左京大夫駿河守ョ氏 從三位−同左衞門佐源氏重 二カ冠者宮內大輔氏 正四位上−友松兵庫頭源氏宗(在印・在判)−脇又一カ源豐次.之れを傳ふ.

後序.友松兵庫助源氏宗謹みて序す.
宗門の劍術は摩利支天より念大和尙的々相承け玉ふに.予七代唯我獨りのみ之れを尊ふ門弟也.若し他流の血脉.念先生慈三より已下之れを傳ふと雖も.
 [後畧]


筆者註 Annotation

● 帋十八枚繼.欠入門卷後帋.巻子装.失原装.ェ永期の料帋歟.
● 亂故・・・故[もと]を亂す.
● 狗・・・別本に天狗と記される.また天狗の一種に狼の姿をした狗賓あり.
● 友松兵庫頭源氏宗・・・彥根井伊家の臣.祿三百石.號僞庵.
● 脇又一カ源豐次・・・彥根井伊家の臣.脇氏の家祖は豐久と云いこの人を初代とする.天正拾年甲州沒落して以後.豐久は權現樣の上意を以て井伊直政公へ召し出され知行七百貮拾石を拜領する.以後數度の合戰を經て加揩受けること度々.元和五年知行二千石.家老役・旗奉行となる.但し豐次の名を家譜に見出せず.二代豐重の前名か或は家督以前に急逝した者かと思われる.


長谷川流兵法剱術 極意卷 一卷
帋本墨書 15.3 × 129.1 cm 江戸時代 萬治四辛丑年三月吉日付 個人藏
長谷川流兵法剱術極意卷. Edo period. dated 1661.
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譯文 Translation

長谷川流兵法剱術極意.

 八方崩.
一.□□[亂曲]
一.亂心
一.丸箸
一.C眼崩
一.兩剱留
一.瀧落
一.大拂
一.鐵石
一.嵐

 剱術組討の卷.
一.稻妻
一.電光
一.車返
一.亂光
一.楯合
 [中畧]

 兵術三要.
一.日電
一.雷電
一.地獄險

右三拾七箇條は.剱術の至極爲るに依て.堅く祕傳とすへく云云.
萬治四辛丑年三月吉日.
長谷川內藏助英信(在印・在判)−柴田十カ兵衞殿.


筆者註 Annotation

● 長谷川內藏助英信・・・江府に於いて名聲を得.門下七百余人と剱雄源海流の傳書に錄されている.


長谷川流兵法剱術 [圖法師卷] 一卷
帋本墨書 15.3 × 236.8 cm 江戸時代 萬治四辛丑年三月吉日付 個人藏
長谷川流兵法剱術[圖法師卷]. Edo period. dated 1661.
Hand scroll. Ink on paper. 15.3 × 236.8 cm. Private collection.

譯文 Translation

長谷川流兵法剱術.

 [中畧]

右此の圖.惡敷きとて必す本圖を以て書き替ゆること無かれ.口傳を以てその理叶ひ難し.故に具[つふ]さに圖を以て.剱術本末の道理をは相傳すへきため.此くの如し.能く至極の道理を明らかにして叶ふことは.微妙至善卷にて是れを傳受す.
萬治四辛丑年三月吉日.
長谷川內藏助英信(在印・在判)−柴田十カ兵衞殿.


[無雙直傳流]心慮之卷 一卷
帋本墨書 17.9 × 72.0 cm 江戸時代 元祿拾六癸未歲十一月吉日付 個人藏
心慮之卷. Edo period. dated 1703.
Hand scroll. Ink on paper. 17.9 × 72.0 cm. Private collection.

譯文 Translation

 心慮の卷(在印)
夫れ無雙藤原勝負直傳の□□正繼一流の和は.尋常のゥ流より出て.天理自[然]に浹洽す. 權謀に拘せす.術法を事とせす.柔剛・[强]弱を離るゝに.和の一字を以てす. 之れを帶佩して和する者は. 剛强を伐つに非す.柔弱に剋つに非す. 水の器に順ふか如くして達す. 故に萬變の達化之れを得れは.心は四股に應す.捕るに非す.打つに非す. 末發の時.無爲無事.已發の時.不柔不强.而して敵を和す. 弱なれは則ち順下して達す.强なれは則ち卽して達す. 因て茲に僕和・水の二字を以て證し抒[の]へ.事理を演說して.心慮の軸と爲し.之れを授け畢ぬ. 後世懇望の輩之れ有らは.便ち靈社の起請文を以て.之れを相傳すへし.其れ心慮の卷と爲す.仍て件の如し.
元祿拾六癸未歲十一月吉日.
小菅遠N居士昌繼(在印・在判)−山野內絲六カ殿.


筆者註 Annotation

● 後世の心慮之卷と引き較べれば脱字・倒錯を見る.これによって譯文はこの原文を少し離れるもまた已む無し.例せば原文「ゥ流出」とあるものは.別本「出ゥ流」の記述に從わねば意通じず.
● 無雙藤原勝負直傳の□□正繼一流の和・・・長谷川英信に學んだ小菅遠Nは二十代目に數えられる.流名は當時正繼流を稱し.後世無雙直傳流と稱されたと云う.
● 小菅遠N居士昌繼・・・名昌繼或は正繼とも.居合・剱術・和の三術を江府に於いてヘえ.門下五千餘.その内八百三拾七人に和の免許を與え.五百三人に和の卯可を與え.四十三人に三術を許したと剱雄源海流の傳書に錄されている.


無雙藤原直傳英信流和 頭法師卷 一卷
帋本墨書 江戸時代 延寳七己未三月十一日付 個人藏
無雙藤原直傳英信流和頭法師卷. Edo period. dated 1679.
Hand scroll. Ink on paper. Private collection.

譯文 Translation

無雙藤原直傳英信流和頭法師卷

本手
 使者捕 砂亂 弓返 付入 右天 右詰 抜捨 胸天 幸面 猿猴 小尻返
 [中畧]

大小詰
 拘詰 骨防もき 柄留 小手留 胸捕 右伏 左伏 山影詰
 [後畧]