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鏡新明智流の傳書

目次

鏡新明智流五重巻目録
傳授者  桃井春蔵直正
傳授日  安政四丁巳歳十二月日
被傳者  島村衞吉

鏡新明智流九重巻印可
傳授者  桃井春蔵直正
傳授日  安政六己未歳初夏
被傳者  島村衞吉

凡例
一、文中「(士學舘)」の小印は省きました。但し、この小印は単に装飾のためというわけではなく、『鏡新明智流五重巻目録』に見られるように、一重〜五重までに小印を捺し、六重〜九重には捺さない、ということから傳授の有無を表わしたものと察せられます。尤も、そのほかの箇所について、他者に傳授した傳書も全て同様であることから、形式的に捺していたとも考えられ、はたしてこの小印にどれほどの意味があるのか定かではありません。

掲載史料及び参考資料
『鏡新明智流目録』個人蔵
『鏡新明智流印可巻』個人蔵
『島村衛吉関係史料集:南国市が生んだ土佐勤王党志士』高橋史朗編 南国市教育委員会


 〇 島村衛吉
島村衛吉、諱は重険。天保五年十月土佐藩の郷士島村壬生平の次男として生れる。嘉永七年島村團六に従い出府し、千葉一胤の門に入り北辰一刀流を学ぶ、同十一月初伝(北辰一刀流兵法箇條目録)を傳授され、安政三年土佐藩の一刀流剣術師範麻田直養(曾て士學舘の三代目桃井直雄に学ぶ)より皆傳を傳授される。 安政四年出府し士學舘の四代目桃井直正の門に入り鏡新明智流を学ぶ、同十二月目録(鏡新明智流五重巻目録)を傳授される。翌年九月廿八日武市瑞山が土佐へ帰国して後、士學舘の塾頭となった。 安政六年四月桃井直正より印可(鏡新明智流九重巻印可)を傳授され、同七月土佐に帰国した。その後、土佐勤皇党に加わり武市瑞山等と共に勤皇の志士として活躍したことは広く知られている。文久三年九月藩より揚屋入りを命じられ、その後度々詮議を受けたことによって絶命、元治二年三月廿三日歿。


『江戸切絵図:築地八町堀日本橋南絵図』尾張屋清七版 嘉永二己酉歳改

鏡新明智流五重巻目録

『鏡新明智流目録』個人蔵

   鏡新明智流目録

一 山見
一 圓向
一 右替
一 左替
一 真之太刀
一 草之太刀
一 月陰
一 山陰
一 浦之浪
一 風車
一 分合
一 位詰

一 全躰
一 雲高
一 山逆
一 必勝
一 逆風
一 真之位
一 草之位
一 残月
一 中風
一 陽之打
一 村雲
一 霞

   仕掛の大事

一 小太刀    五本
一 同二刀    八本
一 居合     九本

一 立合     五本

    外物四本

   中段極意

一 半向     半開
  浮舩     乗
  右轉     左轉
  長短之一身  追〆合
  左太刀
一 天狗抄    花車
  天増     右替
  左替     拳拂
  不動剱
一 亂劒     霞
  上巻     結切
  左拳     向清眼
  袖      拂切
一 燕飛     圓外
  笠内     蹈違
  両車     半車
  吹上     二刀
  押切     移外
  目當     追懸攻
  披

   二之目真之極意手逼

一 陰之陽刀   大口傳
一 小太刀切返
一 同二刀切返

   五重巻口傳

一 月夜之太刀
一 闇夜之太刀
一 真之小太刀

當流は初中終一理一致にて三つの習を
以其本とし相傳に次第あり階級に曰

  一重   二重
  三重   四重
  五重   六重
  七重   八重
  九重

右九重の習一重々の次第を不越其段に心
を留て能不修錬は我物に不成夫生武
士の家此道にうとく不嗜しては天道に不叶と
思定志を六塵に不奪蹈定所を不動
可稽古初心は疑惑多而如無闇夜燈
火雖然其道に志深く修行の門に入時は
起志如至萬里の遠にも周納明晴の
位にも是より至る也此五重迄眼耳鼻舌
身と違たるようなれとも無邊見立たる五重は
一流の肝要也能勤て見る時は其理一也

   一重は足

令歩は心
歩は氣
蹈は力

此心氣力の三つを口傳して足蹈の自由を可

仕習上の重々皆足に乗て進退をなせは上の
曲直多隋此重は此修行不軽強弱の蹈
ようあつて強過れは足地について不動弱過れは足
浮位にて危し二つとも嫌依て陰陽の足習強
弱の蹈よう常々可修錬

   二重は身

令動は心
動は氣
満は力

身の動静についで曲直の有大事無相
傳して難知身の替或は披惡けれは三重の
手も不自由にして大事の相傳も難仕身に雖有
曲直長短の習皆人手にて切事をのみ深く
心に掛傳を外になし我意に募故上手の道
ゑ不至動と満の位工夫して可知曲直長短
の大事口傳の受て可鍛練

   三重は手

令打は心
打は氣
中は力

右一重二重三重と人能三段に覺え其本を
不知令傳る所の三重は三つを一所に遣爲へし
然共手に非れは打事難し三重の曲直は其品
數有色々口傳して可知右三重は五重の中道
なれは千變万化の妙術是よりあらわれ形顕るゝ
也表に出し置所の山圓殘の三本として三十二
段の構皆手より形分るゝ也知に非れは如何とも

難成誠に明成位と云は強弱曲直進退の
六自由に心次第になし静に敵を遣を云也

   四重は口

右相傳なくして口の強弱曲直を可知ようなし
緞[縦]は言に強と云は人怒時は必言荒くして強
し言荒けれは呼吸不静内弱き時人に言事難
し然は強弱の遣やう大事の口傳也内に有勇
時は勝負に望み我言の如く敵を遣時は三重
の手も我言の下知に隋て太刀構を以敵を惑す
時は不勝と云事なし言の妙成事能々可修錬
言を咄と出せは敵三重迄の働を忘て空々と
成也誠に此重ゑ不至は爲合の内に自
由に言事ならさる也深く勤て可修錬

令言は心
言は氣
攻は力

形を以責ると云事人能早く知所也形なき
言の形ある事は相傳なくして難知言に陰陽
あり我言静なる時は陰也敵の虚を見て咄々
と攻る時は陽也如何にも白淨成位より出る
所也能々修錬して可知

   五重は眼

令見は心
見は氣
守は力

守ると云事修錬なき者可知ようなし我備を全

すれは敵の千變万化も見える也雖然修錬なき
時は敵の虚實難知其ついゑに乗故幾度戰
共無勝事敵の動静を見るに離退になつて
見る位大事の口傳也我心を静て守の位修
錬する時は五重の地ゑ至る也故に是迄修行す
れは印可の場ゑ程近し尤爲合の内に敵に當る
所山圓殘の三本として宜所に隋て見の下
の四重の自由をなす口眼の徳大ならすや眼附
の大事を習眼にて敵の動静見ゆる不見を深く
志て鍛練すへし誠の見ゆると云は敵の虚實
太刀を以形を拵千變萬化に謀所の心見ゑ
氣見ゑ力見ゆる時は我五重の自由をなし如下
知敵をはかり山圓殘の三本にて我身を全するなり
眼に有陰陽大事の位也守る事は陰而人
能早知所也陽とて一目見ると敵手足身の動
を忘て頑空と成其時は如何様にも勝よき也口
眼の妙無形形を能々錬磨して可知云云


    元祖
     大禾源直由入道士流軒伴山
           (印)(印)

     桃井春蔵弘剱翁源直一


     桃井春蔵籌勝軒源直雄


          桃井春蔵

     (印)(印)直正(判)


    安政四丁巳歳
       十二月日

     島村衞吉殿
         參

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鏡新明智流九重巻印可

『鏡新明智流印可巻』個人蔵

  鏡新明智流印可巻

鏡新明智流者所以用兵術者
最有表章準則也臨戰量敵
則以表章之五道曰強弱進
退急接兵乗虚則有準則之三
要云眼着拍子曲尺之利鋒也
操之者唯一心為之主也此心于
明于勇此身于術于錬混滴中
則可得勝利者必矣或心有明
無勇或有勇無明豈可乎雖然心
明而勇亦身闇味兵術全不可
得勝矣闕一而非也臨戰接兵
則存一心七分明哲之勇以勵一
藝十分精錬之功而所謂以五道
得闥n以三要視虚實以聲知
形以構得拍子可打不可打可打
焉彼術雖廻兵器如電光此心
平常兵術轉化宜恍惚得所勝
者唯心身術一而已可謂秘中
秘矣心身要道鍛錬守在常道
須更不可離云云

   強弱進退急

一 獅子之洞入洞出
一 追懸者打様之事
一 楯裏突様之事
一 舩軍之事
一 山坂損徳之事
一 腰川勝負之事
一 闇夜用形之事
一 月夜曲尺之事

一 星明用形之事
一 横日心得之事
一 深田沼用形之事
一 敵數多時心持之事
一 組討突様之事
一 無刀之太刀
一 雲水之用形

   突手の事

一 逼突
一 引突
一 二之聲
一 間之拍子

   嫌物の事

一 風呂
一 居眠
一 使人結髪時
一 市町立時
一 川漁
一 力熊
一 數盃

   無刀の物

一 三つ道具
一 棒
一 鎖鎌
一 鎖杖
一 乿切りき
一 鹿子玉
一 鉄當

   曲尺の劒術

劒道をつもりて
渡す苞なれはあたらぬ
まてもはつれさりけり

 中々に人里
  近くなりに
      けり
   あまりに
    山の奥を
     たつねて


   弱

 なか〳〵に
  よわきは
   おのかちから
        にて
    風には折ぬ
     きしの
      青柳


   無刀の秘歌

 突は槍切は
  長刀引は
     鎌
   とにもかくにも
    ならはなら
       まし



 千早ふる
    神も
  うれしく
   おほす
     らむ
    直なる
      道を
     いのる民
       をは


 出す入す
  かせに
    まかせて
   居るならは
  長閑に
    なれる
   時も
    こそあれ


右此大事雖堅秘之依被連
年稽古抽精錬手不得已令傳
授焉拳々服膺而可也望戰
則非啻不破身體敵兵器視
動静察虚實則宜知所中和所
中而則豈不可得勝利乎千
金莫傳用心鍛錬々々依如件

    元祖
     大禾源直由入道士流軒伴山
           (印)(印)

     桃井春蔵弘剱翁源直一


     桃井春蔵籌勝軒源直雄


           桃井春蔵

     (印)(印)正(判)


    安政六己未歳初夏


     島村衞吉殿
         參

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