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大坪流馬術の傳書

傳授者  荒木十左衛門尉元満
傳授日  慶長拾八年六月吉日
被傳者  依藤牛介

目次
手綱の目録の事 一
當流手綱の秘傳書 二
百曲の事 三
手綱の秘傳書 四
不行馬の事 五
手綱秘書 六

掲載史料及び参考資料
『大坪流馬術の傳書』個人蔵
『日本馬術史』日本乗馬協会編 原書房
『寛政重修諸家譜』続群書類従完成会
『徳川實紀』徳川実紀研究会編 吉川弘文館
『新訂黒田家譜』川添昭二・福岡古文書を読む会校訂 文献出版
『黒田三藩分限帳』福岡地方史談話会編 西日本図書館コンサルタント協会

荒木元満
永禄八年、荒木志摩守元清の四男として生れる。通称は十左衛門、諱は元満。父荒木元清は摂津国花隈城主にして一万八千石を領す。荒木元清の一族(一説には弟)荒木村重が織田信長に反旗を翻すや、荒木村重は織田の手勢によって追い詰められ、天正八年荒木元清の居城たる花隈城を最後の砦として戦うも敗れ落城する。落ち延びた荒木元清・元満父子は後ち豊臣秀吉に仕えた。 しかし、豊臣秀次の件によって父子共遠流に処せられる。豊臣秀吉の歿後、父子共に京都へ戻る。慶長九年七月七日、荒木元清は大坪流の馬藝を子元満に相傳する。その後ち荒木元満は旧縁のあった黒田長政の許に身を寄せ禄千二百石を食み、後ち千五百石に加増される。
元和元年五月七日、徳川家康・徳川秀忠が京都に於いて黒田忠之(長政の嫡男)の馬藝を御覧のとき、黒田忠之幼少といえども見事な馬藝を披露したことによって両御所大いに賞賛し手自ら脇指を授け、誰が馬藝を教えたのかと尋ねる、このとき黒田長政が家人荒木元満が教えたと申し上げた。
その後、黒田長政が徳川秀忠へ駿馬を献上するとき、この馬は家人荒木元満という馬藝の達者が調えた馬であること、不愍な身の上ゆえ召し抱えてもらいたいと申し上げたところ受け入れられ、荒木元満は将軍直参の士となり采地千五百石を下された。将軍徳川秀忠の馬藝師範となった荒木元満の名声四海に遍く、世に荒木流と称される。
寛永三年駿河大納言松平忠長に附せられ、同九年五月廿六日駿河に於いて歿す、年六十八。

大坪流
大坪流は足利将軍家の馬術師範大坪式部大輔慶秀に始まり、村上加賀守永幸、斎藤備前守國忠を経て、同流中興の祖と称される斎藤安藝守好玄に至る。斎藤好玄は祖父斎藤國忠に学び馬藝の傳脉を継ぎ、その後ち将軍足利義輝の師範となり、義輝歿後は能登国に帰りその地に於いて歿したという記録や、又は能登国の戦乱を逃れ漂白、後ち荒木元清の宅に身を寄せ歿したという記録が見られる。
いずれにしても、世に荒木流の祖と称される荒木元清が斎藤好玄より大坪流の馬藝を学んだことは確かなことゝ考えられ、史料に拠れば永禄九年正月にその傳を承けている。荒木元清の子元満がその箕裘を継いだ。

手綱の目録の事 一

   手綱の目録の事 一
一馬を乗に第一の口傳力革の尺を知る
 へしかさかけと常の時は六寸なり但ふと
 れる人なとには五分壱寸のちかい可有之
 又はれの時は八寸なり可在口傳
一口を引時の場の事
一乗手厩場の事
一いまた心も知らぬ馬を相口を尋候て乗候事
一いち縄の事つねのことく縄をさして二人
 して引時定はる也
一長腹帯の事犬追物と具足きてのとき
 是大切なり口傳在り
一鞍のおきようの事
一腹帯のしめようの事
一馬の相形を見候て乗事
一かた口の馬に當座をしつ[躾]くる事
一おもかひのしつけようの事口つよきよはき
 によりてしつくる也
一轡の口傳の事
一くゝみのほとらいの事条々口傳在り
一手綱の取様の事
一取よする事
一をしさくる事
一そりものに長く短く取事
一かた手綱の事
一かた口の馬にかたての手綱をはなして乗事
 条々口傳在り
一みかけみぞそひあちさまはたまもりの事
一つけすまいの事
一手綱をかけぬ事
一小山まはりの事
一一二の手綱の事
一こをとかいの事

一すみのたづなの事
一乗事
一内より乗事
一のせてをく事
一鞍数の事此等の次第口傳あり
一鞍の下の事
一雑々の手綱の事しさらぬ馬に乗事
一こすみにての事
一足を乗事
一夜目の鞭の事
一四寸の鞭の事
一おれぬ馬の事
一野へにての事
一よはきかたへ乗事
一つよきかたへ乗事
一足をのる事
一しさり馬の事
一さかはぬ事
一おらぬ事
一足出さぬ事
一鞍の下の事
一つめゆるしの事
一かた手綱の事
一人をまづやる事
一口をひかする事
一門厩の事
一さきちかきかたへのる事
一ひかへて待事
一ひろき所にての事
一うしろより引事
一道中をのる事
一たいまつにて乗事
一水車にて乗事

一四寸の鞭にて乗事
一このむかことくの事此等の次第口傳あり
一轡すまいの事
一ふりかみをまく事
一こをとかひをとる事
一つなきようの事
一わを足にいるゝ事
一はたまもりの事
一かけ縄の事
一壱本はしらの事
一しつまるほと上にはむる事
一のる事
一みその入事
一しけくなふる事
一百くせの事
一しつまる時もしつまらぬ時もなく事
一はなかはの口傳の事
一くはへてはむる事此等の次第口傳あり
一水車の事あかる馬はね馬しさる馬に専
 是を乗也
一縄をみてしつまる馬も在又くるふ馬もあり
 可心得也
一のりて口をあらふ事
一くりあけ袖かへし事
一俄に手綱をみしかく取事口傳あり
一すみの手綱の事むかはき驚き惣て物に
 すまふ馬に大切なり
一一三の事三ひやうしそろふ事口傳在之
一とまらぬ馬を二所にて留る事
一ころふ馬にをりたつ事
一堀なと惣て物をこす時の事口傳乗手に
 よるへし
一五方の口の事

一四面の鞍心の事
一あひ乗すへき事
一車をとろきの事
一からかさ驚の事
一具足驚きの事
一こをとかいにての事
一左よりつめて乗事
一すみのたつなの事
一一二の手綱の事
一内より乗事
一わたし手綱の事口つよき馬に乗なり
 口傳あり
一やすんすのたつなの事弓持てから笠さす
 時これ大切也又いくさのとき太刀長刀つかふ
 にもこれ入なり口傳在之
一ふせすまいの事
一先つめて後あけ足を引事
一乗ふせにする事
一ひとりふせにする事
一血酔の馬をおこさてあつかふ事百會を石
 にてたゝくへし
一おし手綱の事悪所かん石をとをる時この
 心ね大切なり六の心あり又八の心を号す
 口傳あり
一馬を立て灸をする時つなきようの事
一毛なと取ときくるふ馬を二つ物にてこし
 らふる事
一つよくくるふ馬を毛をとる事
一きねか袖の事
一扇の事
一龍のさゝやきの事
一はたまもりの事
一嶋まのりの事こしらふるときくるふ馬に

 これ能なり口傳在り
一心の轡をかけての事
一轡はみぬきたる馬の事
一手ころしの事なへたる馬口のそろはぬに
 乗なり
一くるふ馬にかま縄をさして置事
一口籠にて乗事
一目をかくしてしゆみをかふ事
一山を前にあてて瀬水かふ事
一口をつなきなをす事
一口つよき馬を道中にてゆひて乗事
一肥てしつまる馬の事
一いきあひの事
一つよく乗ては惣薬をかふへき事
一口こはき馬を道中にてこからみのたつな
 にて乗事
一朝露を乗事
一弓にて引馬留る事
一物を聞てくるふ馬にしたくをして乗事
一耳を取事こしらふるにくるふ馬是を取物也
一おとる馬にくつの事
一ほそ道にて立ぬ馬を乗事
一しはつなきの事口傳在
一河わたす時の仕度の事口傳あり
一くせ馬こしらふる時士馬屋にてしたゝむる事
一乗時もおるゝ時も返し送りを可乗事
一しけく乗て馬にとふへき事
一乗程を知るへき事
一一三の手の内は生得の事也乍去口傳在へし
一年行たる馬はくせなをりかたき事
一年ゆきてはまた乗手にあはぬ馬の事
一夜乗の事
一道中を遠く可乗事

一鞍数を可乗事口傳あり
一遠近を乗事
一心を乗事二様在
一荷おもきにしつまる馬の事
一小角の事
一下乗をすへき事
一乗てかへる道の事
一一手に乗事
一轡のあてとの事
一三所をさくりて乗事
一横歩の事
はみをわたす馬の事
一轡氣にかくる事
一くせも口の事
一一くせなをれはよのくせもつれてなをるもの
 なり口傳あり
一過物を心にて乗事
一大まくのたつなの事
一雲しきゆひ留の事
一ひけいのたつなの事
一きくつほの鞭の事
一のれみよみよのれの事
一一騎の時道中にてはやる馬におるゝ事口傳在り
一ぬかを努轡をぬく事
一ねかせて過物を乗事
一そこまてとくる手綱の事よくしん[欲心]にあり
一そこつ[粗忽]に足を出さぬ事
一しつまる所にて口を乗事口傳あり
一乗おさむる所の事
一心なかく乗事
一したかふてしたかわされの事
一をく所に轡をかけて乗事
一よはきかたへかゝみを引こからかしてのる事口傳

 あり
一過物にのられて乗事
一口を乗足をのり足をのり口をのる事
一心より口くちより心の事
一かた口の事口傳あり
一かたての手綱をはなして乗もあり口傳
一足を乗事
一口を左右へわたさはなをる時分と可心得口に
 よりてつよきかたにはきかたを乗へし
 口傳あり
一乗うちにはやれともやかてしつまらはなを
 る時分と知るへし
一馬の心を乗知り我か心をも馬に知らすへき事
一一暮とも乗馬は一日に二度も可乗事
一女騎の手綱の事
一四手綱の事
一過物はものゝひゝきにはやる物也可心得口傳在り
一出はあらき馬におくしを一くれ乗事
一道中にてをとる馬に少はしりを乗事
一口はまたあつかふほとはなをりおさまらぬと可
 心得口傳あり
一外より乗てかゑりても場にて口を乗て置へし
一遠山の手綱の事過物に乗也口傳あり
一口を引ともうけこはぬ所にてゆるしてうち出
 すへき事口傳あり
一馬のかたより口をはるゝほとかゝへて乗事
 口傳あり
一過物ことに乗にはやくあせをかきやり足を
 つかいくひしく出来目の色かわりてこへを
 しけく出してはやるなり
一しかめきてをとる馬をは先庭にてよく静
 に乗らてしつまりて後足をはやく乗はて
 をけは外にてもをとらすして静にあゆみ出

 るなり大かけまはしにてははしりを口の入ほ
 と可乗口傳あり
一趣によりたいおうをする事
一なつとくのぶんなくしては上手にはなり
 かたし
一おとい馬一旦をりふしたりとも油断すれは
 もとのことくになるなりおこりて後は
 なをりかたし
一馬の口は人の面のことし似てにさるものなり
一大かけまはしの事
一つゝらをりの事
一りうこかたの事是をは雪の朝とも云
一方をさためす乗事
一口を引てひかされ
一鞍立をしてせされ
一鐙をふみてふまされ此等の次第口傳在り
一六の角
一さゝ波の事
一尻引の事
一君知らすの事
一もち曳の事
一たゝひきの事
一まよふらんの事此等の次第口傳在り
一つよく引はつよくなる
一つよくひけはよはくなる
一よはくひへはよはくなる
一よはくひけはつよくなる此等の次第
 口傳あり
一馬の口は引てひかさるものなり
一手綱計か手綱ならさる事口傳あり
一二つものゝ事
一父母のたつなの事是をは天地とも云
一見さことりの事縄をつして乗事なり


 口傳 一わすれ草の事
一高屏風の事
一鞍の上の十五のきよく
一鞭に七徳あり
一鐙に八つのしなの事
一鞭の上十五のきよくの事
一おる時の事
一あかる馬の事
一は[跳]ぬる馬の事
一しさらぬ馬の事
一しさる馬の事
一かしらさくる馬の事
一くそく[具足]きての時の事
一そはを乗事
一よこうねを乗事
一海川を渡す時の事
一過物を乗時の事
一鐙に八つの心持の事
一おる時の事
一ちかへてふむ時の事
一過物に乗時の事
一川をわたす時の事
一をりたつときの事
一そはを乗時の事
一引て行馬をあふみにて留る事此等の次
 第口傳あり
一しゆもんの事
一とくたうの歌の事
一是なる事は是なれとも是ならさる事は
 是ならさる事
一青事あいより出てあいよりふかし氷はみつ
 より出て出て水よりひややかなり

一さとりゝゝて末悟におなし
一易々難々
   以上貮百五拾五ヶ条


右此一巻は常に相傳申仁雖無之年
来別て御懇望の間難去存調
進入候御秘蔵肝要候也

        荒木十左衛門尉
慶長拾八年六月吉日   元満(判)

     依藤牛介殿
          参

− 1 −

當流手綱の秘傳書 二

   當流手綱の秘傳書 二
一馬を乗第一の口傳ちからかわの尺を知るへ
 しかさかけ[笠懸]とつねの時は六寸なり犬追物と
 具足きては四寸なり亦はれの時は八寸
 也条々可在口傳
一鞍のをきやうの事可有口傳
一はるひ[腹帯]のしめほとの事可有口傳
一馬のさうかう[相形]を見て可乗事口傳に云
 くひしゝあつくかゝりふゑのねのはりたる馬
 の人ひかすといふ事なし但馬による事も
 在へし猶口傳
一手綱の取ようの事可在口傳
一鞍の敷やうの事可在口傳
一鐙のふみやうの事可在口傳
一馬をおる事可在口傳
一さうゝゝ[雑々]の手綱の事可在口傳
一ひきてゆるすしほの事是書にわきかた
 き事に候稽古肝要のところにて候哉
一口によりて轡のあてと[所]の事可有口傳
一口を返す馬の事可在口傳口傳に云つい乗
            く[後筆]
 て能やうなれとも口をかへしてそこの口
 ありてくせする在へし心得無油断可乗
 事なり
一馬の心を知りて可乗事其馬の心をよく
 乗知りて可乗と云々
一心も知らぬ馬に乗ていたしさかひて不可
 乗口傳別になし目録の分也
一口悪き馬をあしいたさぬ事口傳に曰かけ
 足を乗はわろき口おこるものなり又口
 もなをりおさまりかぬる物なり好玄曰
 馬によりてわさとかけ足乗てもはや口
 なをる事も在口傳

一馬を乗庭の事口傳曰過物くせ物をはは
 しめはせはき庭のかこいもよき所にて
 可乗ひろき所にてすきたち候へは大事也
 と云々
一くせ馬を馬屋より乗出す事外にてくせ
 して人のせぬ馬をは馬屋の内より人をの
 せて出しそとにて乗かへて乗事なり
 好玄曰此乗かゆる手綱をはころし乗と
 云々
一乗手馬屋庭の事口傳に曰乗てくせし
 出したる乗手をはのせで別の乗手を
 のせてなをすへし馬屋も曲したる馬屋
 をはかへて別の馬屋にてくせをなをす
 へし庭も同前にくせしたるをはかへて別
 の庭にてせめてなをすへし
一乗ほとの事口傳に曰乗程大事の物なり
 うちはなる馬に乗すこしたるも悪し
 過物にたゝさるも悪し
一あせかきて其あせのいりてをくも在へし
 心得て可乗好玄曰かやうの處みなゝゝ
 委けいこ在へき事共也
一馬のいきあひ心得て可乗事口傳別に
 なしいきあい心得て乗也いきあひを知
 らすしてのれは馬損する物なり猶可
 在口傳
一口を乗馬手一に可乗事口傳曰口を乗
 馬をは我より少してましにても候へ心得替
 へきゆへに口さたまらさる也いわんやへ[侭]
 へたにのせておやと云々
一心なく可乗事口傳別になし過物には心
 なかく可乗と云々
一一しり一くれと云事口傳に曰これ皆一七目の
 間の事也大事の馬をは一七目も二七目も

 三七目もせめて口をなをす物なりかくのこ
 とくせめて後なをる
一夜る乗事口傳に曰夜るは馬の心も人の心
 もしつまる心を用也猶可在口傳
一あひ乗の事口傳曰あひ乗してならてはあか
 らぬ物なりと云々師と弟子といつれも乗
 て此間の心にかけたる所をも師にふしんを
 はらし悪き所も手綱の心をもうつし馬せ
 やうの善悪をも能々稽古するなりされ
 は相乗してならてはあからぬ物なりと云々
一した乗の事口傳に曰あすよそへ行時は
 今日能く其馬を乗入かへ乗事なりこれ
 肝要なりしたかゆると思ふ共人おほき所
 廣所馬つれなる所亦はれの時は思ひ
 の外馬はやる物なり
一過物を乗ておるゝ時の事口傳曰過物を乗
 時ははしめよりいらつ物なれともすこしし
 つまりたる時をりてをく物なり
一馬を乗はてゝは自身引て内へ入へき事口傳に
 云口をよくゝゝ乗入て置共中間しき者
 なとふこうの物むさとくちをあたりさく
 りなとして馬屋へいれ候へはそのくちき
 よくなし自身引きて馬屋へ入てつな
 くへきなり
一馬を乗はてゝやかて庭をはきて置へき
 事口傳曰第一に馬のくせによりて庭の乗
 やう共いろゝゝ可有之人に跡を見せしかた
 めなり又へたなる乗やうも人見知る物
 なりはきて可置なり
一のせて置事口傳曰時ならす馬屋にてくるふ
 馬をは人にのらせてをけはしつまるなり少せ
 めて置事なり
一庭にて口を乗時おとりしかめく馬の事

 口傳云しつかに乗つくれは後はそとにて
 もしつまるなり
一野山にて過物に乗てかへる事口傳に云過
 物に乗て帰る時ははやる物なり別の道を
 替てのれはしつまる物なりかくのことく乗
 入てなをす物なり
一とをき道中にて口いるゝ事口傳曰人に
 教訓をすることくにれんゝゝにのりいるる
 故に口入物なり
一に[荷]をもきにしつまる事口傳曰ふとれる
 人成との乗はてんねんと心しつまる馬も在り
 力つよき人も同前なりしかれともうで
 かいなくほうきやせたる人なりともたつな
 をけいこしてのれはつよきことはり在之
一かわれてしつまり過る馬の事口傳に云
 やせたる時くせしてあらき馬のこへてし
 つまる馬も在之
一口くりたる馬の事口傳曰口こはき馬の手に
 あはさるをはほうの内を刀にて切やぶりて
 いたませて乗物なり又曰手にあはさる馬を
 たつしや計にてこはく乗により口のさけめ
 轡にさくりきられてあるも在なり何も
 これを口くりたる馬と云也是は當座乗な
 をしても余の人乗口のさけ目亦やふれ候へは
 悪くなる物にて候間とげてなをらさると
 云々好玄曰當座なをりたれはなをりたる
 口也口くりたる馬にかきりたるにこそくち
 くらさる馬も當座に手かわけぬれはきを
 かへ口かはる物なり猶可在口傳
一一くせなをれはよのくせもつれてなをるなり
 口傳曰其内に大くせを能乗なをせはよのく
 せもつれてそするなり
一年行たる馬は口なをりかたき物なり口傳に

 云所々にて乗てにあひてのれさる馬はのれ
 ましき事か
一年行たる馬はなをしかたし但いまた乗手
 にあはさる馬ならは乗手にあはせはなをる
 事在へし口傳に曰年行たるくせなり共末
 よき手にあはぬ馬にてあらはよき手にあひ
 たらはくせなをる馬もあるへきなり目
 録の分也
一ふる口になりたる馬の事口傳曰是はなふ
 りそこなひたる口なりおそくなをるへし
 在口傳
一おこりくせの事口傳曰かねてなをりた
 るくせの亦おこりたる事を云也
一たといおりふしたりといふ共油断すれは
 くせをこる事口傳曰目録のことく油断す
 れはくせおこる物なり可心得おこりて後
 なをりかぬる物なり
一馬の目の色を見て可乗事口傳曰目の内
 に血をとき入たることくにして目の内おろ
 めかはいまたくせなをりさると可心得
一馬は五分壱寸のつめゆるしにてのれたる物
 なり口傳曰別になし目録の分也ゆるせは
 とて五寸壱尺ともゆるす儀にあらす五分一寸
 のつめゆるしにて乗物也好玄曰これを
 能師にならい稽古してならてはよかるま
 しき事なり
一口つよきを一ひきひゐてうけこはぬ所にて
 さしゆるしてやる事口傳目録の分なり
 稽古にて心得行へき事
一口をひきてひかされ
一鞍立をしてせされ
一あふみをふみてふまされ
 此条々次第口傳あり口傳曰馬の口は引てひか

 さる物なり稽古最上也鞍立の事鞍を
 は敷時もありしかぬ時もあり但くらの下
 うく時をとかめてきをかゆる間乗う
 ちにをりゝゝ鞍たちをする事これありた
 ちすかすあつかいの事なり亦鐙は踏てよ
 き所もあり亦鐙にたにも足はつれねは
 付つかすにふんてよし但あかる馬にそとの
 屋ないはを四の指にてふむもありきなく
 馬にも同前亦はぬる馬には鐙つよけれは
 落馬する物なりあふみをそつとふむ也口傳
一かた口の馬の事口傳曰つよきかたををる也
 猶可在口傳亦よはきかたへならは大わにの
 ためかたにおる也猶可有口傳
一付すまひの事口傳曰をしかけのたつおもか
 いを取て乗也かけふみ又こしをひねりてふ
 むるなとにはかしらをひきまはひてさくり
 たてゝ乗也亦乗手にたちむかいて身をひ
 ゐてのきまはるをはつきまはりつめて
 乗也猶可有口傳
一一二の手綱の事口傳曰馬の左右へ弐人して立
 よりて能かたより一人乗也扨其後本の乗
 手立よりて乗かはりて乗也是うつし
 乗と云たつななり
一わたし手綱の事口傳曰つねに取たるたつ
 なを一方にわなにとりて左右のこふしの間
 にわたしたる手綱を渡し手綱と云なりあ
 かる馬をこのわたしたる手綱にてあかる時
 たつかみの中ほとをさしておしおとすなり
 亦過物に三方へ引はりてかゝへてのれは
 心しつまるなり
一あがり馬の事   一そり馬の事
 口傳曰此二つの手綱はいつれも下口に
 轡をかけて前わにかゝりをしさけて乗

 事を肝要とするなり
一かしらさくる馬の事
一しさる馬の事口傳曰此二の手綱はいつれ
 も同前なり上口に轡をあてゝうしろの
 鞍を敷へしといふなり
一からかさをとろ[驚]きの事口傳曰庭中にからか
 さをすほめて置て大わに乗まはしのり
 まはして次第にすこしつゝひろけてれんゝゝ
 にひろけて乗つけて其後人にさゝせて
 手をかけなてかた手綱に乗つめて後取
 てさし候也後の度油断すへからすかくのことく
 日をき候て二三度もして後には取てさら
 すへし但油断あるへからす
一具足おとろきの事すみの手綱にて乗也
 庭のすみへ馬のうしろをなして口をよく
 かゝへさせて立よりて乗也つけすまひ同前也
一車おとろきの事口傳曰打むかひて車にを
 それてかへる馬をそのまゝうしろさまになし
 てかゝへて車の馬のとをりへなる時分に車
 は跡へなる馬は思ふ方へ行なりこれつねに
 入手綱なり常ににをふ馬こし[輿]に行あひて
 も入事共也
一物を見てなけひらむ馬の事口傳曰なけ
 ひらむかたへおる也秘傳也
一扇の事口傳曰物見馬に物のあるかたの目
 を扇をあてゝ物をかくしてとをす事也
一きねか袖の事口傳曰おなし物見馬馬に
 袖にて目をかくしてとをすなり心得同前
一物にそふ馬の事口傳曰そふかたへかしらを
 をる物なり
一なへさしたる馬の事口傳曰手綱をみし
 かく取て下の口を能乗なり前わを乗て
 こふしをさけて乗なりつよくくひなゆる馬

 には二鞭を用なり
一二鞭の事在口傳
 
 二むちなり木を用なりから竹をも用なり
 人くらひ馬を乗にも是を用也一方を轡
 のたちはなかねに付て今一方をは鎌手
 に付て乗なり長さは馬によるへしよほと
 は壱尺六寸計は能馬おほく候なり
 
     ふとさはこれほと能候也又一方計
     を用も在之亦一すちを用も在り
 又轡のくはん[環]の方を付てしほて[塩手]の方をは手に
 取付すまひに用事在之
 
一三六寸の事可在口傳
一四寸の鞭の事
        鞭[後筆]
 四寸の鞍なり
 口傳曰いか[厳]ししさる馬にうしろの鞍のしほ
 てはつれをさすなり猶可在口傳なり大方

 かくのことくなり
一八寸鞭の事口傳云轡のはみのことくなり
 
       くろかねを用長さ以上八寸
       是をあかる馬には前わの下に
       敷はぬる馬にはうしろわの下
 に敷なり但好玄は此あつかひ不用候入候はぬ
 事に候へとも目録に有事候間口傳に書
 申事に候
一もゝ色の鞭の事可有口傳旅陳に用
 なり木にても竹にてもこうて[小腕]の間一はい
 に長さをきりて中に緒を付てこうてに
 たてにゆひ付る也繪圖の分なり
  
             もゝいろの鞭壱寸の鞭と
             是を云なり
一りう[龍]のさゝやきの事口傳に云馬をいはへ
 させぬ手綱なり夜討忍ひ路に用なりお
 なわにてしたをゆひて轡のくわんにその
 なわをゆひ付てをきて乗なり
一轡はみぬきたる馬の事口傳曰轡の下お
 とかいへはつれる時ははなの上に轡のひつ
 て[引手]を左は右右は左へとりちかへて引とゝむる
 なりもし亦轡はなの上にはみはつれたる
 時は下をとかいにてひつてを同前にちかへ
 て手綱を能頃につめてとり鞍立をして
 引とゝむるなり但一三のひやうしにあはせて

 とゝむるなり好玄云上にちかへては乗にく
 き手綱なり下にちかへてはくるしからす猶稽
 古の可在之なり
一長腹帯の事口傳曰軍陳にて用なり猶可
 在口傳            へ[後筆]
一轡の口傳の事口傳曰大きに丸くすくし
 と云々好玄猶可在口傳
一おもかいのしつけやうの事口傳曰つよき口
 には少のへてし付候なりよはきくちには
 つめてし付候なり猶可在口傳
一足を乗事口傳曰あしなみをよきやうに
 乗事なり足を可乗馬これあり
一心を乗事口傳曰心を肝要に乗馬有然は
 口も足もよくなるなり
一鞍数を乗事口傳曰馬数をのれなり可
 在口傳
一趣によりてたい當をする事口傳曰乗手
 をあなつ[侮]りて馬一くせする時乗手の方より
 一はいも三そうはいも相當し返す事を
 云なり但手綱数を知らすしては馬によ
 りて叶ひかたき事可在口傳
一したかひてしたかはされの事過物くせ物
 の馬にはしたかいて乗所も在したかはすし
 て乗處も在之心得て可乗是肝要
 の心得なり
一かつ[勝]てかたさる事口傳曰是も心得は同前
 なり大坪父子の間にての心得少あて替り
 てかくのことくなり此二ヶ条は同手綱の心
 得なり馬には乗かつて能心も在又乗ま
 けて馬にりをさせて能處も在之但
 かやうの處とも稽古に心得行へき事也
 好玄曰此心得はいか[厳]しの馬に殊に入事なり

一轡わたす馬の事口傳曰口を左へなして渡
 さは右の手綱をこふしをひきくとりかた
 めへし左へ口をやる時は左の口をひら
 手にて打へし是も下口を能可乗猶可
 在口傳左右同前
一轡を牙にかくる馬の事口傳曰さくりて取
 なりもし亦きにかけて引ておる事あ
 らは鞭にてほうらいを打は轡はつるゝ
 なり其時轡を返なり是をほうらいの
 鞭と云なり此鞭人引馬に打と云なり
 つねに打たらは猶々人を可引又氣のう
 とき馬に用なり
一あさりの鞭の事口傳曰口ふる馬に打なり
 左へふらはふると打と一度にすへきなりひや
 うし[拍子]ちかひてはそのきよく在へからす
 口わきを上下かけて可打なり
一くりあけ袖かへしの事口傳曰俄に手綱を
 つめたき事なり手にからまひてつむる
 事なり猶在口傳
一ひかへてたゝぬ馬の事在口傳
一乗たる馬を口あらふ事口傳曰乗候うちに
 細々に口をあらふ事はねはりをあらひおと
 して口をかろくすへきためなり
一過たる馬を一騎乗ておるゝ事口傳に云道
 中にてはやる時はをりてくつろけて又乗
 事かやうにをりゝゝする事同道人のある
 時はならさる手綱なり馬しつまる理在り
 是可有口傳
一馬によりて口をすてゝ足を乗事口傳曰
 口をなをさんとては口をのれは口なをりかぬる
 馬を足をのれは口もをのれとなをる事
 なり猶可在口傳
一鐙をちかへてふむ事口傳曰

  
      此心にふむなり過物に用事も在
      是猶口傳
一鞍たまにとらるゝ事口傳曰過物には鞍た
 まにとられて乗事在之猶稽古に心
 得行へきなり
一なつとくのぶんなくしては上手になりかた
 き事口傳別になしなつとくせされは上手
 になりかたき物なり云々
一心より口も悪くなりたる物なり口傳曰心
 より悪くなる口をは心をのる乗なをせは
 口もをのれと能なる物なり
一口より心悪くなりたる物なり口傳云口よ
 り心も悪くなりたる馬をは口をよく
 のれは則能なる物なり百くせは口より生
 するといへとも心より口も在と云々猶
 可在口傳
一馬の口は人の面のことし似てにぬ物なり一篇
 には定めかたき物なり口傳曰目録のことく
 馬ことに口も心もかはるものなりされは
 能習たて稽古させれは十方わきまへ
 かたき事なり
一馬持ことつめ持事爪持こと馬持事口傳云馬
 をよくもつとは爪を能持人のことなりつめを
 見て持人を馬持と云なり爪損すれはのれ
 ぬ物なりのれぬ時は馬すたれりと云々
一海を渡す事口傳曰ちからかわに秘事在り
 又細々足の入事可在之心かけてひきたて
 ゝゝ乗へしうしろの鞍を可乗鐙をふみなを
 す時あふみを波にとらるゝ物なり大ゆひの外
 の四のゆひにて外のやないはを能々かゝへ

 へし手綱は天地の手綱を可乗上口を乗事を
 心かけへし左右共
一河を渡す事口傳曰是もちからかわに秘事
 あり口傳同前力皮の口傳ははるひ[腹帯]に力革
 をゆひ付なり鐙を波にても水にても
 打あくる物なり其時あふみぬくる事在之
 其時の用なり秘傳なり河を渡す時は河上の
 あふみをそとふみ同前の手綱を細々引立々々
 乗なり河上のあふみつよくけ[蹴]めは馬まろ
 ふ物なり河下の鐙を心得て能頃につよく
 ふむなり河下の手綱をはひらくひにそへて
 馬をかゝゆるなりむかひの打上へき所を能々
 心かけへし油断在之は大事なり又こなたの
 岸にて耳へ水を入おとろかして乗事秘傳也
 又此方の岸を打入時にすくにいれす河を
 うしろになして馬をよこつけに入なりかねにい
 るれは馬さかさまにまろひてたちまちあ
 やまちする事在之最上の秘傳なりこれ
 肝要なり鞍はうしろの鞍を用なり但川にて
 は石をふみまろはかして馬まろふ事在り大石に
 むねをつく事も有ほかと一足ふかき所も
 ありしつかに心かけて可乗又およく事は馬に
 よるへしこれうしろの鞍を乗へし口も上口
 たるへし手綱大くつろけては馬なかるゝ
 なり又口を引あけ過れは潮を呑水をのむ事
 在之条々心かけ乗へしいつれの所にても馬
 による事なれとも殊海河の事は馬によ
 るへき事なりつねに河たちの馬を所持
 在へき事かすいれん[水練]の馬の中にまし水と見
 ては水したをくゝる馬在之是は又大事の物也
 但乗やうも可有之歟つねに乗しりて可持
 事肝要なり猶口傳在之
一河ふしの馬の事口傳曰竹ようの鞭を用と

 云々又ほうらいの鞭をも打なり耳二つの
 間を打事なり耳のねを打事を常に竹よう
 の鞭と云なり此方の岸にて耳へ水を入る
 事秘傳なり好玄云只いかしの馬を能乗
 候へは弥のるゝ物なり俄にいかやうの手綱を乗
 候ても河ふしには其間なくて必ふす事
 条々稽古口傳可在之大事の所なり
一ふけをとはする事口傳曰上口を用るなり
 うしろの鞍を用なりいか膝の鞭を打さくり
 立てかけとをすなりつよく足入所にては
 馬とひて行物なりとふほとの足入は馬によ
 り二三間計やうゝゝとふ馬可在之又乗手
 のあつかひによるへし猶可在口傳
一江をとはする事口傳云とはすへき口を
 能く馬に見せて引返して跡へ五間斗もかけ
 出してやかて引かゑして江の口へかけすへてや
 かてこゑをかけてとはするなり是も馬に
 よるへし堀口をとはする手綱なりとの書
 を江と斗書申なり
一よこうねを乗事口傳曰うしろの鞭を乗也
 但鐙をさのみつよくふます手綱をゆくや
 かに取なり鞍の上を少そりて乗なり口を
 かゝへあくる心細々可乗かけ出す時も鞍は同前也
一たし手綱の事口傳曰是は悪所かんぜきを
 乗なり山をあくるには山のなりをみてつゝ
 らをりにあくるなり第二同下も同前つゝら
 をりを乗なり第三坂を上るには前わにかゝ
 る第四坂を下すにはかゝるなり第五日坂をあ
 くるにすへる所はうしろを敷第六日坂を下に
 すへるには前を敷なり第七坂を上るに足の入
 を云ぬかるには前を敷第八日坂を下にぬかる
 にはうしろをしくなり第九山のこしにて馬を返
 す時は山の原へかしらを引まはして返すなり

一此外かんぜきをおとしそはを乗事はつれも
 手綱の内なり猶在口傳
一心のくつをかけて乗事口傳曰石のなき所を
 ふませてとをす事なり旅陳常にも心かけ
 肝要なり
一具足きて馬上の事口傳曰常にはちかゑ
 るなり手綱をなかく取てひちを衲の下に
 置て衲のつきおんずりとよきやうに乗
 なりつねのことくひさをさのみ立ませす
 こしかめの前にて鞍を敷心得に乗なりこふ
 しを引こめて乗なりかふとにひかされて落
 馬しけき物也もゝにて能はさむへし此ほか
 条々可在口傳乗をりの時は弓杖をつきて
 乗なり弓を取候はぬ時は長刀鑓かまをつき
 て乗なり故実なり
一具足きてかけ足出す時の事口傳に云よこ
 うねの乗やう同前なりもゝにてはさむ心
 得肝要なり後輪を敷なり
一引て行馬を鐙にて留事口傳曰これはかけ
 出してすえさまに前足のひちほねをあふみ
 にて二つ三つもけ[蹴]てすゆるなりひちほね
 いたみしひれてとまるなり好玄此手綱用
 不申候目録の口傳にて候書のせ申なり
一大まくの事口傳曰引馬にすわう[素襖]かたきぬ[肩衣]
 にても取てつらに打かけてとゝむる事也
 好玄用申さす候是も用に立候はぬ手
 綱にて候但はなれ馬ことに人くらゐなとなら
 はむさといた[抱]きつく事中間小者躰仕るよ
 りはよかるへし又物見馬には用事在
一小まくの事口傳曰てぬくひにても馬のつら
 に打かけて留る事用同前
一口をゆひて乗事口傳曰口のさけめに
 是ほとにおなわをかけてをしかけの上にて

 能頃にとゝめておもかいの下に此なわをかく
 して乗事なり其馬の毛の色にそむる
 なり其毛の色の手綱とも云なり
一一文字の轡と云は忍ひの糸と云手綱の事
 なりたぐひきと云轡の事なり口傳に云
 只引と云はいかにもせられす口をいたみ候
 馬には轡のはみの中をくさらすして如此
 の轡にて乗てなをすなり此口傳を常の
 轡にて乗時はこれほとにやはらかなる
 なわにて轡の両方のたちはなかねにな
 わをはりて一文字になしてこれにて乗也
 又大過物にこれほとになわをこしらへて
 同はりて此轡をかけて乗なりたちまちに
 心しつまりて能なり繪圖にしるすなり
 猶在口傳    過物には此なは少ちいさきを通
     (図1)しのひのいと
         たくひき
         一文字
一くもしきの手綱の事口傳在大過物の乗
 くせにも用一人の外不傳
一人引馬を鞭にて留事可在口傳
一をり立事三様有之可有口傳
一岩のそきの手綱の事可在口傳
一口を引は口をこる口をひかねは口なをる
 事口傳曰悪く口をなふれは口おこる物なり
 口を悪しく乗よりのらてをけは悪き口の
 なをる在へし猶可有口傳
一つよくひけはつよくなる
一つよくひけはよはくなる
一よはく引はよはくなる
一よはくひけはつよくなる

(図1)

 此等の次第稽古在へし
一馬の口は引てひかさる物なり口傳曰目録
 の分なり是も稽古にあるへき事共也
一鞍をは敷てしかさる物なり口傳曰敷時も
 ありしかぬ時も在之是も稽古にて心得
 あるへき事
一鐙をはふみてふまさる物なり口傳目録の
 分なりはしめに何事も書候なり
一しゆもんの事可在口傳
一観音の名号の事可有口傳
一一薬の事可在口傳
一とくたうの哥の事
   ひくも行ひかぬもゆくは馬のくち
    ひかすゆるさぬ時そのりしる
   つよき口よはき口をも乗しれは
    引てひかさる物にてありける
   何とたく雪や氷とへたつらん
    とくれはおなし谷川のみつ
一是なる事は是なれとも是ならさる事は
 是ならさる事口傳
一手綱計はたつなならさる事
一馬の口を引事は安しゝゝ難しゝゝ
 さとれは安し
   以上百廿九ヶ条


        荒木十左衛門尉
慶長拾八年六月吉日   元満(判)

     依藤牛介殿
          参

− 2 −

百曲の事 三

   百曲の事 三
一馬屋にて曲の事
一舟ゆるきの事
一しき板かふる事
一はつなくひの事
一はらかけくらふ事
一はなかわぬく事
一はつなかつく事
一足かきの事
一きぬかけふむ事
一人くらひの事
一ぬかをあさりこほす事
一轡すまひの事
一鞍すまひの事
一しりかいすまひの事
一毛とりすまひの事
一足あらいすまいの事
一爪打すまひの事
一尾をあけさせぬ馬の事
一爪のうらほらせぬ事
一くつかけすまひの事
   以上廿ヶ条
 ○血とりすまひの事
         一つめられぬ事
一あけ足とらせぬ事
一つめられてあまたの人を引て行馬
一とふ馬の事
一左ふせになる馬の事
一うしろ足よせぬ事
一かゝらせぬ馬の事
一ういかつきまろふ事
一前をつきてかへすまろふ事
一うしろ足をしきてしさりまろふ馬あり

   以上血すまひの馬十ヶ条
 ○乗曲物の事  付すまひの事
一乗者のかたへかゝりてかけふみする馬の事
一同かゝりてこしをひねりて両足にてふみのくる事
一同かけふみてみつつき取人をもけはらふ馬あり
一ひたゝゝと身をのきてまかりて人をのせぬあり
一同のきゝゝして乗手の近付時かゑつて乗
 手に打かかりてしきたをす在之
一同かけ出て人をのせぬ事
一乗手に立むかいてたゝきのくる馬あり
一同たちむかひて大にあかりていたき態り
 くらひかゝる大曲在之第一大事の曲に候哉
一乗者のよるを見て大くるひしてあたりをはらふ事
   以上付すまひ九ヶ条
 ○不行馬の事
一少も身をうこかさゝる事
一同あけ手綱打斗なる馬あり
一少あゆみ出てあつかひ次第にしさる馬の事
一同ふす馬の事あゆみ立てすへにてふす馬
 在之
一同左右へすりかゝる事
一同しさりたをるゝ在之
一同身をすててとふもあり
一同物にはまる馬あり
一同大はねする事
一同大にあたり手綱をこす馬
一身を捨て打かつきたをるゝ馬あり
一同あふみくひする在之
一同大にあかりて乗者の左右の方へくらひつく馬
一同乗は則まかり立て乗者の足馬のおかみ
 足にくらひ付馬左右同前
一ひたしさりにしさり行も在之
一同大はねしてかたにてつき出て手綱をこ

 してあかりてはねぬきて人を落す馬の事
 是は第二斗の大曲の大事なり
一河ふしの馬の事
一同かときはにて曲の事
一馬屋の口にてくせの事
一同立木の在所へかけ入曲の事
一同立木の在所へしさり入馬有
一同竹の林の中へこみ入しさる馬在
一かけほりへかけ入馬あり
一同かけほりへこみ入馬あり
   以上廿五ヶ条
  已上六拾二ヶ条在之
 ○聞驚の事
一かみなりおとろきの事
一大こみに驚馬の事
一かねかい[鉦貝]におとろく事
一ときの聲に驚馬の事
一惣てさはかしき物のひゝきに驚く馬事
一火事におとろく馬の事
   以上
 ○物見馬の事
一車おとろきの事
一から笠おとろきの事
一死人におとろく馬
一惣て物見馬の事
一具足おとろきの事
   以上
 ○人引馬心過の事
一同いまた人におちいやうにおつる馬の事
一同衣裳のはりめくにおつる事
一同赤き色に驚く馬の事
一むかはきにおとろく事
一くつをとにをとろく馬の事

一あをりに驚く馬の事
一鐙のさはるに驚の事
一風に驚てをのか尾をふかれ驚く馬も在之
一物のかけにをとろきてをのかかけにもおとろく在之
   以上
一口こはき馬の事
   拾ヶ条
一ねは口の馬の事
一轡を牙にかくる馬の事
一はやり馬の事
一いたむ口
一大そりのなくれ口
一口をふる馬の事
一そり物の事
一うつふく馬の事
一轡をわたす馬の事
一大過物の事
一人引馬の事
一一三の口惣して大飛する馬の事
一同かけ谷江堀へ留らすしてかけ入事
一よこたつ馬の事
一岩築地にはしりあたりてひしける馬在之
一高をとりする過物の事
一おる口にて引て出る馬の事左右同前
 五方口同
一輪をけきりて引馬の事
一築地きかへすりよせて人引馬の事
一そりて人引馬の事
一むねにて引馬の事
一いりかまくひにて引馬の事
一かた口にて引馬の事
一地を乗とおす中より引出馬の事
一地足にても物にはまる馬の事

一左右にてすきなく引出馬の事
一乗て其まゝ引出馬の事
   以上
右此一巻百曲といへとも好玄存分
少々調之者也穴賢々々

        荒木十左衛門尉
慶長拾八年六月吉日   元満(判)

     依藤牛介殿
          参

− 3 −

手綱の秘傳書 四

   手綱の秘傳書 四
一百くせの手綱の事いか[厳]しの馬にきはまり
 たる事なり是はさきへゆかぬ馬なり
 但百くせといゑとも馬屋の内の曲をも
 其中につもり候物にて候間乗手の
 大事におもふ曲は百くせまてはなく候又大
 過物はさきへ行一篇なれとも是は参の
 曲の数にもこえて大事の曲なり是を
 乗候手綱は三國一の手綱なるへし又これ
 をよく乗あひする乗手は尤三国一の乗
 手たるへしと云云能々可在分別事候哉
一手うつしの事此手綱は色々の曲する馬にも
 大かいあいかゝゆる手綱なり心もしらぬ馬第一
 に乗なりをしかけのたつなもかいを取て
 乗たり此時は左の手にては左の前わの手か
 たをかゝへて乗也付すまひ人くらひはね馬乗
 くひとて乗ゐたる者にくらひ付馬に吉少々の
 人引馬にも吉ちあしにても口のとまらぬ馬に
 吉最上の能手綱なり此外条々徳おほき手
 綱なり猶稽古在へし又乗はしりと云馬是
 は他流の名付なり當流には一段大事の馬と存し
 其故は則人引馬にて候也一度ひかれては乗
 手も馬もはてたることはり[理]なる歟是も
 手うつし肝要なりつねに各此手綱を乗
 候へとも其理を存えす此口傳最上の秘事なり
一小山まはり是も付すまひに用候也乗はしり
 と云にも用人くひ馬にも用事あり在口傳
 馬屋の内より鞍に手綱をかけて引出外に
 て此手綱をまんゝゝに引つめて乗事なり左
 の鐙ふむふますの間くらひつく馬在之心得の
 乗へし此外猶口傳在へし
一水車乗てまはす事也是も百くせはね馬大
 過物はつれの馬にも用なりすみの手つな

 最上の秘傳

   (図2)水車

一輪を乗事何流にも用なりしかれは
 稽古の条々可在口傳同是も百曲に乗
 なり大小あるまし殊過物に肝要なり大小
 とはつめて乗て馬しつまる時は大輪に
 乗なり猶可在口傳
一乗ころせと云事是も内藤流の手綱の名
 なり口つよき方をははしめはのためかたに
 大輪に乗て次第々々にわをつめて置也
一乗たすけと云事はよはき方をは始はわを
 ちいさく乗て次第々々に乗ひろけて大
 わにて乗をさめ候事也いつれも口を
 乗手綱なり猶可在口傳
一大かけまわしの事馬よくゝゝせめてかた入に
 なるとおもふ時分大わにしよは[序破]のかけ足を
 乗候物なり猶可在口傳
   (図3)大かけまはし
      わつくり共云
一かけまはしの事是もおほゝゝ序破のかけ
 足を乗候物なり庭のやう繪圖の分也
   (図4)かけまはしひつなりに
      乗へし
一かけをりの事乗やうの心得同前なり庭
 の乗やう繪圖の分なり左右の口をよく
 乗入候事なり此足肝要なりこかけまはし
 共云なり又乗手の乗へきあしなり猶乗
 やう可在口傳
   (図5)かけをり
      こかけまはし共云
一つゝらをりの事此足肝要過物の馬場をす

(図2〜6)

 くにのれは過たる馬をつゝらをりにてとを
 し候なり又口のむらをなをし又過物の過候
 時此乗やうに徳をほきなり
   (図6)つゝらをり
 但鞍鐙轡まても色々心得候なり又かけ折も
 三つの心得同前なり鞍鐙轡の事也猶可有口傳
一ちかく乗事過物くせ馬をは近くこめて乗也
一遠く乗事とはうちはなる馬をはうちのへて
 遠く乗なりふかくも乗候はぬ物也猶可有口傳
一法をさためすと云事くせ馬過物には法不定
 乗物なり此方の字のよく秘して傳也方義共法義共一字
                      たる也
一うてを手綱とすると云也是は過物のあら馬
 を乗はしめの事なり但可在口傳
一手綱をなかくみしかく取事此口傳一段の秘事
 なり馬は初はみしかく手綱をとりてもくつろく
 時分に長く取候はねは馬くつろく事なく候間
 この心得ふかく秘して乗事なり但くつろけやう
 稽古口傳在之
一轡のあてとの事とは上口の馬をは下口に轡
 をかけて乗下口の馬をは上口に轡をかけて乗候也
 中の口の馬をは其儘乗と云々好玄曰中の口の馬
 人引は一段乗にくき物にて候秘傳可在之
一同轡の秘傳とは口のよはきかたきはみのをりめ
 をひきあてて乗候事なり可有口傳
一序破急の乗様の事序は地足しつかに乗事
 なり破の足はたくゝゝなり急はかけ足の事
 なり猶可在口傳
一侍尓の事とは何の所にて馬をせめ候にもむ
 さと乗候はぬ物にて候はうしを乗さためて
 乗事也其上にておもふ所へ乗事も在へし亦
 一三の口乗入へきとてはすへへき所にてちあし
 たくゝゝにて乗つめて口を能々引入てかゝへて

 すえ付て後には急にかけてもすはるへし肝
 要なり小笠原流には馬の毛によりて口傳也
 但理はなき事候哉猶可在口傳
一一三の事口傳三つの物を一になす儀なりと云々
 鞍鐙轡此三を一同に心を合て馬上すくやか
 にいつくしく乗ゐて馳とをす事也猶可在口傳
一四面の鞍とは四方より見てよきを云なり
一馬上のみつなみの事地足には鞍をすくに乗
 は[破]の足には少かゝり急の足には猶かゝりて乗
 事を云なり
一前輪にて乗事是はそる馬あかる馬に乗
 中の鞍に乗事は中の口にて乗時の鞍
 なり後の鞍にて乗とははねるうつふく馬を
 上口に轡をかけて乗時用也条々可在口傳
一角の事とはあかり馬をは下すみにて返す也
 はぬる馬をは上すみにて返なり上すみをは
 後わの鞍を乗なり猶可在口傳
一口をやはわかに乗事口傳云是はしさりくち
       す[後筆]
 を乗て口のさけ所もなくやはらかにせ
 め入つる也但稽古肝要と申事にて候
一下口を乗事最上の秘事也相傳申候間口
 傳書にわ不申候
一ほうくいの手綱是は片口の馬なへさす馬手綱
 をこす馬こは馬いかしの馬人おとす馬あかり馬
 人くらふ馬とふ馬はね馬物見る馬人引馬肝
 要なり道うちはやる馬同前也
一むなかいの手綱用る曲の条々同前
一しのひ糸と云手綱是も大過物に用なり
 はやる馬乗口をいたむ馬にも用之なり
一咒文の事
一名号の事二様在之
一鞍立の事過物に道うち庭馬場何の

 所にてもせむる時用なり
一いきあひの事心得て可乗肝要也口傳
一鞍数の事在口傳人引馬惣て心すきくせ馬
 ををせめ入候に此心得肝要なり
一一暮乗事口傳一七目一手にてせめ候事なり
 惣て大事の事をは一七目二七目三七目まても
 せめ候て入る物にて候
一大事の馬をは人中にては乗候はぬ物にて候是
 を能々心かけへき事肝要と云云大事の馬
 とは人引曲馬あら馬の事にて候かやうの
 馬共は大事の手綱を乗候はてはのれさる物
 にて候間人に見へましきためにて候
一大事の馬をは人なき野山又庭にても人
 なきくらき夜乗事にて候是は手綱を
 人に見せしかためにて候此心得肝要なり
一馬乗と申はよ所にてのれぬ馬をわか馬屋に
 たてゝ一暮二暮にてもよくゝゝせめ入候て後
 人中にて乗事候人前にて手綱を乗事
 は恥辱にきはまりたる事にて候かやうの条々
 何れも道の掟にて候間心持肝要也と云云
一いきあひの薬の事
一やすんすの手綱の事人引馬地口こはき馬
 一三の口わろき馬弓を持笠をさし大刀長刀とり
 あつかふに大切也亦鷹をすゆるにも用るなり
右此条々は過物を乗入候事共を能々雖
申候但いかしの馬の事は御稽古なくて
は御傳難叶候間書分不申候穴賢々々
        荒木十左衛門尉
慶長拾八年六月吉日   元満(判)
     依藤牛介殿
          参

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不行の馬の事 五

   不行の馬の事 五
一第一乗ては一足もゆかすしてこらふ在へし
 乗手のかたより手綱をはしめ候事悪し
 先々馬のかたよりふりをなし候とも手綱
 をも口にあたらすして能々馬のあつかひを
 なさすへし馬つねしきのあつかい共と心得て
 手綱を待かねて如此也さて馬立わつらひ
 て在時に右にても左にてもしつかにまは
 して見る時に其儘馬のしさるあるへし又
 乗手の手綱のあつかひをすてゝ轡の心を
 は捨すしてそをゝゝかゝへてやる時馬しさり
 とゝまる所在まし其時又其口をはなさすま
 かし候なりまはる時はいつまてもまかすへし
 又まはらすして立とまるか又物きはへ付てと
 まるか其時又をなしかたへまはしてあつかふへし
 又馬こたへてこらふる時に外にても打にて
 も一方の鐙を打あらゝゝ馬打へからすそゝ
 と数をさそふへし打か外かに馬あつかふかた
 在へし折々如此すへし又はしめの口をかへて
 はしめ右へまはしたらは左へ馬まはるへし然れは
 又其口へ手綱をうつして左右何方へも馬の
 まゝに返しまはすへし
一第二弐間三間にても馬出る事在へし馬に
 まかすへし乗手の鞍心はいかにも初心に鞍
 につかれてやるへし其時馬はたと行とま
 るへし爰にて先へやる心悪しからかわす口の
 趣に任て跡へもとのいかししさる所へ乗へし
 其時又はしめの曲をなすへし乗手又はしめ
 のことくあつかふへし馬又出へし其時ははし
 め馬のあゆみ出行とまりたる所よりは一
 足もこなたより引返してもとの所へ返し付
 てをなしあつかひをすへしいくたひも同し
 あつかひを乗候へはよし又云後には乗返し候

 事をつよくとつねの馬を乗候やうに乗
 返すへし又わに可乗事打も馬にあた足
 をたてさせす口むきにおふして左右へ引
 まはして乗かへし鞭うち口にも鐙にもあら
 くあたる事悪し只口に引かけてまはし候か
 能候也次第々々に馬遠くあゆみ出へしあゆ
 み出候ときは何ときも馬にまかせてよは
 くと初心に乗て馬にり[理]をなさすへしいく
 たひも馬のとゝまるとおもひ候所よりは
 引返して本の曲したる所へかへしてせむへし
 乗やうは如此能候なり
一第三馬あらくあゆみ出候は其まゝ二遍もと
 をり候はをりかへし但本の曲したる方にて
 おり候は悪し又常の馬のやうに人を待口をと
 らせなとしたるは悪しをしかけをとりて馬の
 あゆみなからにおちかへし後にはかけ足に成
 たる時にをりかへしおり候心得同前たるへし
一第四乗手の方より乗たてをしてあらく乗
 候時に馬ことに存分に大曲を出し候物なり
 此心得肝要なり馬のくたひれて能時分に
 鞭鐙を能やうに可打此二の心得何よりも
 つて肝要なり
一第五馬つかへてくるはゝしつめて色々に馬
 を立すしてあつかひ候へし乗やうは可為同前
一第六馬いかにもむてにしてしつみ入候やうに
 乗手のあつかひをもおとろかすして出さる時
 はあふみをも打口をも心得て荒くあつかふ
 へしけにゝゝおとろかぬ馬にて候はゝいかひさの
 鞭を引返しさまに打へしうちやう左右同前
一第七馬まはらすしてをもく候はあさりの鞭
 を打てまはすへしいかなる馬もまはるへし
一第八猶もまはらぬ馬候は四寸の鞭にて可乗
 馬によりて何の鞭も其数を可打但何の

 鞭もをりふし肝要なりこれか稽古の所也
一第九曰ゆかぬ馬に三日月の鞭を可打きか
 すと云馬なし条々可在秘傳
一第十鞭打時つゝけて打事ははくらふこ
 ときの躰共なり一段悪し鞭可打とおもふ
 事を心の内によくゝゝ思ひたもちてさてけ
 にゝゝ出すは可打とおもひ候心にてすてに
 鞭をぬきてもいまた打すしてにくしと
 思ふ心にて馬を立鞭をしめてはかゝへゝゝし
 て馬の出はを待に出くは其鞭不打して吉
 幾度も如此心得をなすへし此後けにゝゝ不
 叶して手綱をひかへ馬を立て鞭を打へし
 其時馬ことに曲こはゝゝなる物なり鞭を
 打ては則鞍かゝへを能々して落馬し候はぬ
 事を肝要と心かけへしさて馬のくせしつま
 り又手綱をとり合て鞭をかまへへし
一第十一鞭におとろき馬あらゝゝとあゆみ出
 候時に能と思ひてあらゝゝ乗返し候事
 悪し馬にまけてやうゝゝにしてしつかに
 かゝへて可行此心得又肝要なり
一第十二馬のをもくしてゆかぬ時に鞭打
 事悪し馬の出立て行候は馬場中にて
 鞭鐙打候か能候さて行たつ事つよく候
 物なり馬の心にも口にもつよくなるやうに
 乗となすへし
一第十三同馬を馬場すへの乗やうの事馬の
 行立てつよき乗の足にてまんゝゝにあ
 つかひかけて返し候なりか様の所稽古肝
 要たるへし
一第十四馬の馬場もとはゝすへにて能々あつ
 かひにかないて打出す時ははゝ[馬場]中へうつり
 てはいかにもかゝへしつめて馬の氣を能く
 乗通すへき事肝要なり

一第十五はなしぎわの事五間三間もこなた
 より馬の心に合せて乗つよむる事肝要也
一第十六馬の曲なをりて後ははやくせめ入へ
 し此時は出る所にてしつかに乗ていき
 をよくかゝへてはゝ中を急に可乗のり納る
 時は二返しも三返しにてもうちとをしてはゝ
 たけを通すへしへんををほゝゝ乗事は悪し
 この時はすくに家路に乗帰るか能候あさく
 ふかく乗事は猶以其馬の氣によるへし
   此条々次第能師に稽古肝要候
一第十七いかしの馬には後の鞍を乗わする
 なといへり雖然前の鞍を乗事肝要の秘
 傳在之
一第十八同馬可乗手綱等の事
一波の下の鞭
一鐙にて乗事
一あさりの鞭
一二つ鞭
一二鞭を一にて用事
一三か月の鞭
一四寸の鞭是は条々在口傳
一平くひの鞭はね馬に用事
一あかる馬に鞭の事後を打事口傳
一鞭三すちにて乗事最上の秘傳也
一勢田の渡りの事
一しり引の事
一ひかする事在口傳
一ひろき所にて乗事
一道内にて乗事
一足入にて乗事
一山にて乗事
一河にて乗事
一海にて乗事

一このむかことく乗事
一人くらひ馬なをす事最上の秘傳なり
一同人くらゐ馬に持薬をかふ事在口傳
一同いかし馬に馬場をあてて乗事
一同馬に色々の手綱を乗といへともゆるす事
 肝要なりと云々
一ほうくいの手綱の事
一待ほと大事の物なり
一忌草の事
一前後の手綱秘傳なり
   以上
右いかしの馬と云は是百曲の馬の事也
然は乗馬かたの流々其数おほしといへ
とも此曲を乗したかゆる人は古今に
まれなる歟大かたいかしの馬を可乗次
第好玄少々調是置申候但唯受
壱人の外不可傳仍此一巻荒木志摩
守殿に相傳申者也穴賢々々

        荒木志摩守入道
慶長九年甲辰七月七日  安志在判


        荒木十左衛門尉
慶長拾八年六月吉日   元満(判)

     依藤牛介殿
          参

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手綱秘書 六

[前紙欠]

一かんせきおとしの事口傳には左の手にて手
 綱を十文字に取て前わをかゝへこしをそらし
 て右の手にてくみちかへを取て耳二つの間
 よりむかひを見へし高野おとし同前かう
 やおとしとは少なすへて草おふへしあつ
 ちをとしも同前かんせきおとしのしゆもん
 なり左右の手に天と云字をかきて馬の
 ひたゐにと云字を書ておろす内に
 呪文をとなふへしきはへんしやくせつもん
 とうしくわうしんくらはかうゐんせうし給へ
 さて四旬の文山王のしゆをくるへし哥に曰
  ちはやふる神のちかひにゆみはりて
   これこそ駒にあひらうんけん
    咒に云
 したうふるんゆいけんけんしとうもかたきこと
 なしたゝけんちやくをきふしらて心そわか乗
 て左の耳へ三度つゝとなへ手綱のかゝへ肝要
 なり如此候へともましなひする隙なくは鞍かゝ
 ゑておとす内にとなゆるなりさかしき
 所にてとけんとおもはゝ前へかゝりてとむる
 引返に口傳在からおとしかんせきおとし十
 死一生の時おとすなり高野あつちは所望
 によるへし
一沼わたしの事口傳曰わたさぬまへに引まはし
 四つ五つ此鞭をしたゝかにうつへし左右
 同前さて乗入へし口にあたりてとをすへし
 もし馬つかへは山あひの鞭をしけくうち
 少も口をさくる事不可在向へ我か心をやるへし
    哥に云
  ちはやふる我か心よりなすわさを

   いつれの神かように見るへき
 さて四旬のもんをとなふへし条々口傳
 ましなひをせすしても乗へし
一むすひかりの手綱を乗事口傳曰百里を二
 時三ときに乗付る共馬のいきをきらさ
 ぬなり乗へき足はたゝゝゝ色々にはやく
 あゆませてはまはす七里一いきなり帰りて
 二いき三いきやすむるなりかけ足は三里
 はかりもし馬くたひれは釘をさすへし
 第一に馬の舌をとり出してしたさきより
 
 [間紙欠]
 
 三つふせをきてわり針に三分さしてはり
 口に薬をかうかいの耳三すくひはかりをく
 へし二にはなの下をきり針に五分はかり
 さすへし右のはなの下をも立針に五ふん
 はかりさすへしいつれも後二つのはりは
 なほねのおいとまりのはつれなり第三はな
 さきのくほき所をさすへし条々在口傳
    薬に曰
一口ふとからすをとりてけんこし物そむる花
 此二色を等分にして口の内へ入次第に入候也
一甘草五匁 一人参五匁 一荏苓五匁 一大黄五匁
 一くしん十匁 一けんこし十匁 口傳曰是を何れも刻
 て羽かいにいれつゝみて湯散をもてはし
 さきより尻さきまてしかとまきろ[炉]に
 入て黒やきにして粉にして用やみ馬にも
 舌をよくつめたき水にてあらひてかうかひ
 のみゝ三すくゐはかり舌の上にをきてすり
 つくるなりかんねつ共にさをるなり最上
 の秘傳なり唯受壱人へ可傳なり
一こはき馬を一時の間になをす口傳の事

 口傳曰おとこ女のゑなをとりてこにしてみ
 けんの辻を針にてさし後針口よりかわと
 にくとの間に後薬を入てよきかんの湯
 に酢酒を入ておくへし則せめへし心しつ
 まるなり但口傳
    咒に云  
 おんすいしやくかいとくけたつ是を三度とな
 ゑて
 可乗壱人の外不可傳
一こはき馬心過氣口つよき馬あたり馬付
 すまひ物見る馬物におとろく馬鞍をき
 すまひ人くらゐ馬其外曲馬共ましのふへ
 き事口傳曰のらすして手綱のまかりを取て
 馬をつくゝゝと見てしつむるなりいかなる馬
 もしつまるへしそのまゝ馬のひたいの辻の上
 にゆひにて我か舌の中のくほき所のつは
 きをつけて辻を中にしてわをきやくに三
 度まはして如此の秘事をすへし付すまひに
 かきらす具足おとろき轡すまひ其外
 人をよせぬ馬もかやうに字をかきてとゝこ
 をらすむなかひをとりて乗へし但たんれん肝要也
  北二    北三  如此輪をまはして一三のことく
            次第々々に字を書すこしも
 (図7) 北一  北六 さかはす可乗若一度にて不
    北七      用は二度も三度もまはふへし
            条々口傳につくしたり秘
  北四    北五  すへしゝゝ
一舟すまひの事口傳曰馬のひたいの辻の上に
 賦と云字を書て左右の耳に後哥をよむへし
  南無と聞聲もろ共に舟のりて
   名そ吹はらふ波のうき雲
 又左の耳によむ哥

(図7)

   北國やさるをの宮の神の成て
    四所明神の月をこそ見れ
 賦と云字の点をは舟にむかひて打なり
一馬こみ[混み]にて人の馬はなれて我か馬にかゝ
 る時の事口傳曰後馬にむかつて此字を書也
       賦  留
 四しゆ五わう 九字の文を切へし
               か[後筆]
一川をよかする時の事口傳曰波たつく打
 てくる時のしゆもん北にむかつて後哥
 をよむへし
  打渡す頼そ川のなみまくら
   人もすたすに我もわたさん
 同すたし付迄よむへし後咒をもくる
 へし咒に云さんゝゝさくそはか七返唱ふ
 へし鞍口鞭口傳在山わの咒をくるへし
一人くらゐ馬ましのふ事口傳曰丑の年の女
 房の日数の血を帋にしめしてあをまめの
 かわをむきて後帋につゝみて七目水にて
 かふへし
一舟にのらぬ馬の事口傳曰帋をちいさくさき
 て[後筆]
 へ釼印にて賦と云字を書て舟のあかに
 しめしてまるめて左の耳へをし入てのせへし
一橋すまひの事口傳曰橋のつめにてをりて
 馬のみけんの辻毛の上に伊勢といふ字を
 かきてわたすへし但あつかひ肝要なり
一百曲の馬をましなう事口傳曰左右のまなこ
 に霜霞と云字を書てまなこの上に籠
 後字を二つ左右に書へし馬の両方のひさふ
 しに虎と云字を書へし我か身にも霜
 の字むねにもつ同ひたいに一つ同左右の

 ひさに一つつゝ書へしさて馬に乗て
 四旬の文をくはんねんして乗へしむらを出す
 へからす条々大事の秘傳なり又鞭のとつ
 つかに如斯書へし
一汀ふしの馬を乗事口傳曰賦と云字を
 かきて耳にをしこみて乗へしなをあつか
 ひ肝要なり
一しらさる馬にむかつてまなひの事口
 傳曰  此文字を釼印にて馬の
 見るやうに書へし馬すまふ事なり大事
 なり秘すへし
一大ころしの手綱の事口傳曰せんかたもなく
 ひかるゝ時乗ふせにとゝむるなり右の手綱
 をさはらにかけてそへて左の後輪にあたると
 めての鐙をふんはると後三を一度におるへ
 し必馬ころふへし是は最上の秘傳にて
 候也秘すへしゝゝ
一金くつの事口傳在一くろかねのやすりくつ
 一松やに一ふしかねはに付るの事なり
 一味噌能を用一あゆのうるか
 口傳に云これら皆等分に合てかわらけにて
 ねり合て用なりつめのうらに付る時の
 事馬のすそを能々ひらして此薬付
 てうら金にて引金にあてゝ薬を付る
 なり其後くつを打てをくへし秘傳この
 薬也と云云
 右此薬爪いたむに用なり

右此六冊は斎藤安藝守好玄大坪流
乗馬秘術の書也予自蚤歳慕斯道
故見授与秘奥令也實子十左衛門元満
所附与の秘奥莫隠以往就爾在請

傳授者則豈在畢乎仍以是為證云々
        荒木志摩守入道
慶長九年甲辰七月七日  安志在判


        荒木十左衛門尉
慶長拾八年六月吉日   元満(判)

     依藤牛介殿
          参

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