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新天流の傳書

 〇 天流・天道流
斎藤判官傳鬼 相州の人なり。北条氏康に仕え、金平と号す。壮年より刀槍の術を好み、鶴岡八幡宮に参籠し、霊夢の端有るにより、潜(ひそか)に天流と称す。又た天道流と曰う。従遊の士若干傑出たる者多し。(『武術流祖録』)

 〇 新天流
新天流は、斎藤傳鬼の高弟増田弥次右衛門正胤に始まるとされます。増田正胤の履歴は詳らかでなく、越前北ノ庄藩主松平忠直公の家臣ということ以外は分っていません。高弟の小山田貞重は増田正胤と同じく松平忠直公の家臣にて高七百石、松平家の改易後はその子小山田重正が米沢の上杉家に、小山田盛信が会津の松平家に仕えました。小山田貞重は自己の工夫を加え真天流と称したと云われます。この流れとは別に、斎藤傳鬼の高弟信太勝長の子信太勝政や上遠野秀門もまた新天流と称したと云われ、小山田系が新天流と称することもあり紛らわしいところです。

 〇 新天流の傳書
こゝに掲げた新天流の傳書は、益田弥次右衛門正次より松平忠直公へ進上されました。松平忠直公が左近衛権少将に遷任した翌年、慶長十七年のことです。先ほど触れた斎藤傳鬼の高弟増田弥次右衛門正胤とは、この益田弥次右衛門正次と同一人だろうと考えられます。
筑波大学図書館の所蔵する『天流諸目録(天正九辛巳歳今月吉日良辰付)』が本傳書のごとき条目で構成されており、且つおよその文言が似ています。各箇條の子細は相違していますが、『天流諸目録』の「序八段 第五巻」「依道段 第六巻」「口伝抄 第七巻」「小具足之段 第八巻」「取手段 第九巻」「太刀合柄具足一篇 第一巻」、この辺りが本傳書の前半に相当すると見られます。

掲載史料及び参考資料
『新天流巻』個人蔵
『日本武道大系』今村嘉雄他編 同朋舎
『武術叢書』国書刊行会編 国書刊行会
『増補大改訂 武藝流派大事典』綿谷雪氏/山田忠史編 東京コピイ

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『新天流巻』個人蔵

今此新天流者昔日
是人師作所傳神變矣
妙之釼也然間古来諸流
之作所窺天下無双也因
茲決雌雄則勝利眼前
至學位可知


新天流   初巻

南無五拾余尊守護所
 一 右釼
 一 左釼
 一 無上釼
 一 左右釼
 一 右真之位
右條々千金莫傳可秘之

南無五拾余尊守護所
 一 とわきの太刀
 一 とつめの太刀
 一 武具つきの太刀
 一 おし合のたち
 一 まくの内のもの
 一 無刀きり
 一 下具足とめ
 一 からめたち
 一 野中のまくとめ
 一 をいもの太刀
 一 しゆりけんおとし
 一 といたち 口傳有
 一 けんくわわけたち
右條々千金莫傳可秘之

南無五拾余尊守護所
    小具足之段
 一 袖詰
 一 きりとめ
 一 つけとめ
 一 つきとめ
 一 ほしつき
 一 笛つめ
 一 しやく八つめ
 一 大つかつめ
 一 小つかつめ 口傳
 一 ちかひつめ
 一 もとゝり
 一 大太刀にて前後詰
 一 小太刀にて前後詰
 一 大太刀九寸五分
 一 うしろつめ
 一 しんのくらひ 口傳
右條々千金莫傳可秘之

南無五拾余尊守護所
    身之曲之段
 一 いくみ
 一 たちくみ
 一 よりかゝり
 一 無刀入
 一 杉たをし両條之大事
 一 うてもき
 一 まきゝぬ
 一 ふろつめ
 一 さやつめ
 一 羽かへし
 一 よつかい

 一 にてんのひきあひ
 一 たちもき
 一 はり合
 一 しきつめ両條之大事
 一 ゆめのまくら両條之大事
 一 ほうつめ
右條々千金莫傳可秘之

南無五拾余尊守護所
    やり之段
 一 天上天下たち
 一 にんりやくのかまへ両やり
 一 おし合
 一 かたてとり
 一 両てとり
右條々千金莫傳可秘之

南無五拾余尊守護所
    長刀之段
 一 うちつめ
 一 せつしん 口傳有
右條々千金莫傳可秘之

南無五拾余尊守護所
 一 しゝのいん
 一 車のくらい 口傳有
 一 三條之武
右一流之巻

南無五拾余尊守護所
    やり極意之段
 一 たせいつめ
 一 馬上のやり

    長刀之極意
 一 水くるま
右條々千金莫傳可秘之

南無五拾余尊守護所
    極意之段
 一 大天くたをし
 一 夜るのたち
 一 ひつし 口傳有
 一 ひつ生
 一 ゑい月
 一 月かけ
 一 いつしゆ一とう

南無五拾余尊守護所
    高上之段
 一 せつ人刀
 一 くわつ人刀
 一 無しつ

    灌頂之巻
 一 みしめなわ 口傳有
  

       益田弥次右衛門
慶長拾七年子
  二月吉日   正次(判)

進上
 越前少将様

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