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『夢想次源流兵法傳書:元禄十五壬午暦仲春吉祥日付』筆者蔵
2019.3.28 夢想次源流兵法の序
前回は古文書の「漢文体」というものに焦点をあて,「日下開山武蔵守流兵法」の「序」を取り上げ,流義の始りについて記しました,

今回もまた「漢文体」に焦点をあて,「夢想次源流兵法」の「序」を読解します,
これを読解すれば,流義のはじまりについて少し知ることができます,
もちろん当時の古文書に書かれていることですから,現代為されるような研究に基づく記述ではありません,あくまで流義自体がこういう由緒をもつと表明したものです,
但し,表明とはいえ他見他言を禁ずる傳書のことですから,この通りのことを流外の者へ表す機会はあまり多くなかったかもしれません(たとえば,殿様や藩上層の下問にて流義の由緒を述べる機会がありました),
とすれば,流義の由緒を傳書に書き留め置くことによって,後学の者をして忘失せしめぬための措置であったとも考えられます,

前回とは異なり,今回の「漢文体」は「行書」で書かれています,
「漢文体」はおよそ「楷書」で書かれることが多い,と述べた舌の根も乾かぬうちに,「行書」の「漢文体」を取り上げて,いったいどういうことかと思われるかもしれません,
しかし,敢えて「行書」で書かれた「漢文体」を探したのです,

念のためもう一度断っておきますが,迂生は漢文の勉強を初めて日が浅く,入念に計った書き下しとはいえ拙劣です,誤読は勉強の次第によって随時訂正していきます,







『夢想次源流兵法傳書:元禄十五壬午暦仲春吉祥日付』部分 筆者蔵
夢想次源流兵法のはじまりは,「粤嶽本某幼好釼術,」から「余滴落人間,今行于世,」までに着目すれば読み取れます,
大略を述べますと,
嶽本某は幼いころより剣術を好み,諸流派を学ぶもそれでは満足しませんでした,
永享年中(1429〜1441),薩摩の国霧島において養心・練行すること百余日,偉人があらわれ神奥を傳授され,世に次源流が行われるようになった,
とのことです,

「偉人[現代云うところの偉人といわけではなく,同音異字の”異人”を指すのでしょう,]」が来て神奥を授けた, これは前節に「源廷尉僧正谷而得異人傳授之心法,」という話を提示しており,それに似通った現象であることを前以て示唆しているわけです,

不可思議な体験を経たことで一流を開く,武術のはじまりにはよく見られる伝説です,
これを荒唐無稽として扱うのか,心身を極限まで追い込んだことで見た幻覚に依ると見るか,正しくその通りなのか,後世の人にとっては何とも言ゝかねる話です,尤も迂生はこういった伝説や由緒のたぐいを否定する氣は毛頭ないと付け加えて置きます,

この話を別の角度から見ることのできる『夢想次源流兵法傳書:享保十六辛亥年暮春吉祥日付』の記事を取り上げ,流義の始りについて記されたところを掻い摘んで述べますと,
次源流を開いた嶽本大膳は,十七歳のとき諸神へ祈り山々嶽々に修行し,あるとき薩摩の国切嶋ヶ嶽に参籠して御夢靈を蒙り,一流を開いたとされます,
御夢靈を蒙ったことに因ってこれを夢想之太刀と云い,流名に夢想を冠して「夢想次源流」とも称します,
この夢想之太刀は目録に二十一個の名目あり,また別の傳書においては烏天狗の姿をもって太刀遣いを著したものがあります,

先に掲げた『元禄十五壬午暦仲春吉祥日付』の傳書とは異なり,『享保十六辛亥年暮春吉祥日付』の傳書では「御夢靈」によって太刀を会得したとされています,この話し手は嶽本大膳のことを”父祖”と記しており,『元禄十五壬午暦仲春吉祥日付』のものより後になって成立したと考えるのが妥当でしょう,
さらに愚案を呈すと,『元禄十五壬午暦仲春吉祥日付』の傳書における表現は粉飾的,『享保十六辛亥年暮春吉祥日付』の傳書における表現は現実的,といった相違が見られます,「偉人に逢って神奥を授かった」と云うのと,「御夢靈を蒙り太刀を会得した」と云うのではずいぶんと印象が違うのではないでしょうか,

さて,先ほど触れた烏天狗の傳書というのは『剣道五百年史』にも取り上げられています,
また同書の示現流の項において,薩摩藩外に行われた夢想次源流は,示現流の流れを汲みつゝも変容しているなどゝ云ったことが,傳書をもとにして記されています,

将又,『庶民剣士と村山の農兵』の中に「智源流」のことが書かれており,嶽本の名乗りを継ぐ人物の存在にも触れられています,


「夢想次源流兵法」は,前回の「日下開山武蔵守流兵法」よりも世に行われていたようで,史料の残存量も多いと思われます,世にあらわれていない史料が新たに見付かれば,もっと詳しいことも分ってくることでしょう,
今回はこゝまでゞす,次回何を書くか決めていませんが,都合よく「草書」の「漢文体」があれば取り上げようと思います,