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起倒流柔術鎧組討の傳書

本體之巻
1796.寛政八丙辰年林鐘穀旦
今堀吉之助能寛−山中丹右衛門

天巻
1796.寛政八丙辰年九月
今堀吉之助能寛−山中丹右衛門

地巻
今堀吉之助能寛−[山中丹右衛門]

人巻
今堀吉之助能寛−山中丹右衛門

性之巻
1815.文化十二乙亥年十月
今堀吉之助能寛−山中丹右衛門

口傳秘書巻


 〇
今堀吉之助能寛は幕臣、安永3年(1774)8月7日18才のとき家督 安永5年(1776)2月22日浚明院(家治公)にまみえたてまつり、寛政7年(1796)10月6日西城の御徒目付となり、班次故のごとし。

 〇
『口傳秘書巻』はその文体から察するに流派が受け継いできた伝書ではなく、師範が弟子へ傳授したそのとき限りの作成であったと考えられます。同書の文中において「人の巻」については「右いづれも用に立たぬこと也、故に流義に右様のわざこれ無し」(※右いずれも、というのが全てを指すのか、或いはそこまでの数項なのか定かでない)と、「諸流十二の形」については「此の十二の形も用に立たぬこと也、是にて色々のわざを教ゆる義なり」と註釈されており、従来の伝書からはうかゞい知れない実際の教授の有り様が記されています。


掲載史料及び参考資料
『起倒流柔道鎧組討合巻』個人蔵
『口傳秘書巻』個人蔵
『寛政重修諸家譜』続群書類従完成会
『江戸幕臣人名事典』熊井保編/新人物往来社
『日本武道体系』同朋舎

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本體之巻


『起倒流柔道鎧組討合巻』個人蔵

(印)
 起倒流柔道鎧組討本體
 之巻
(印)
本體者体之事
理也専離形扱
氣不得正理己
不知扱氣静貌
至所得静氣敵
之強弱能徹強
弱通達則千變
萬化無不制敵
是則中虚實為
本務体之正而已
故本體云爾

    今堀吉之助
寛政八丙辰年
 林鐘穀旦 平能寛(印)(印)(判)

 山中丹右衛門殿




本體青色東團形
金體白色西半月
火體赤色南三角
水體黒色北圓形

土體黄色中四角

 殺活

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天巻


『起倒流柔道鎧組討合巻』個人蔵

(印)
  起倒流

 天巻
(印)
起倒はをきたをると訓す起は陽の
形倒は陰の形也陽にして勝陰に
して勝弱にして強を制し柔にして
剛を制す吾力を捨て敵の力を以て
勝不然して吾力を頼み吾力を
出す心あらは勝利不全勝利
全き處貌は敵に随て変すれとも我
心不動にして静正なる時は不可有
不得利

當流に本體と云事を始にしめす
本體とは何を云そなれば心裡虚霊
にして神氣不動貌をさして本
體と云敵に對するに爰に敵ありと念
の起る時は動するもの顕る動するに至て
一身むなし敵とみて然も心不動虚
霊にして安對する處本體備われ
るなり是を不動智と云平生の神氣
不動の工夫熟得肝要也神氣不
動にして敵に對すれは敵氣をのまれて
迷ふこゝを先を取とも云たとへ敵より
先んにとりかけても吾神氣不動
なれは敵速に事をなすことあたわす
しかるうへは勝利たしかにあらすや

一 風水智音
一 目附
一 起居心


 須掌静謐
  以上

寛政八丙辰年九月 今堀吉之助
          能寛(印)(印)(判)

 山中丹右衛門殿

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地巻



『起倒流柔道鎧組討合巻』個人蔵

(印)
  地巻
(印)
 序
ほのかに聞中頃福野某と云
人有て組討雌雄の術を修煉し
微力にして剛強に對し全く勝
利をうる事をなす然はあれと
其術世にあまねく傳るもの多
からさりしに三浦某寺田某
此両氏福野氏門弟として一貫
の道を極む其後両士流を分て
廣く衆を導く所謂三浦は和と云
寺田は柔と教ゆ兵法に曰柔
能制剛とまことにゆへ有哉
予か師寺田正重先祖の業をう
け切磋琢磨してその淵源を
極むるのみにあらす更に己か意を
つけて無拍子と云事を発明す
是則微妙の真利也號て起倒
と云授る于三巻の書を以す
しかしより此かた其術益明らかに
して門人弥すゝみその名
四方に高し予又彼門に遊ふ事
とし有後学の徒夜半に思ひ
夙にねり終に無拍子の真利を
握る事を得は其敵に應し
速なる事石火のことく勝を
とる事素手にして強蛇を
搦るに同しからむと云爾

 寛文十一辛亥春三月上弦


一 敵に柔剛強弱之事
敵に柔剛強弱の位あり柔弱の
人に向ふとも軽しめ侮るへから
す又剛強の人に對するとも
危ふみ恐るへからす常の修煉に
柔弱の相手には剛強の人のことく
心を励し剛強の相手ならは柔
弱の人のことく思ひこなして修行
すへし然は修煉には剛強の人
柔弱の人長高大の人低小の人
其嫌なく修煉して獨立の位に
いたるへし

一 無拍子之事
當流無珀子といふ事眼目なり
世にもてはやす和捕手と云には
拍子表裏の位を求て勝負を決
定する事多端也無拍子は是に
異なり敵に拍子表裏を求るとも
亦は無二無三に取掛るとも敵の表
裏拍子に乗らす我直躰に備へ
正心神氣を動かさすして向ふ時は
躰氣満々とみちて敵の強弱
邪正表裏遅速の氣さし未
顕れさるに察し秘術を振ふと
いふとも是に應して變化し
勝利を得事疑へからす拍子
といふに二品あり軽くうき立
たるを皮肉の拍子と云重く静
なるを筋骨の拍子と云浮立
たる拍子を請て勝利をうる事
如何程も有へけれとも危き事にて


真の利にあらす拍子に出来不出来
遅速有ゆへなり をもきの字此所へつゝく也
重きも軽きもともに拍子を
用ひす然とも熟得して後は
其業につれておのつからなる
拍子あれとも拍子を好み用ひさる
事右のことし

一 調子之事
調子といふは拍子に似て似さる所也
軽くこまやかなるを陽の調子といふ
況てゆるやかなるを陰の調子といふ
右の品は書のへかたき面々色々
所作を修煉するうちに自然と
心に合する所の調子を得て覚悟
すへし

一 位之事
位は波上浮木の位やうき立なみ
には浮況む浪にはしつむかことく
敵の氣力の烈しきにさからわす
夫に随ひ應して其氣力を察し
勝利をうるなり

一 先々先後先之事
先に取掛て其先をぬかすして
勝を取是先々先敵よりとり掛
られて敵の先を抜て勝を後の
先と云求すして叶處勝利
なり或は先或は後先と求る心
あらは心とまるなり心とまる
所に於て勝利あるへからす


適[たまたま]勝利有とも拍子表裏の
危事にて実理にあらすと
知るへし

一 水上の胡芦子之事
水上に胡芦子を打は捺着即轉
といふ事あり瓢を水ヘ入て手を以て
推は脇へ出いか程力を以て押と
いへとも同し事にて留らぬ也
其如く敵の力にさかふへからす
是波上浮木と似て氣味また
少し弁へあり修煉自由を得て
如此成刻はいか成剛強と云とも
制せすといふ事有へからす
 大水の先に流るゝとちからも
  身をすてゝこそ浮む瀬もあれ
是又おなし心はへ成へし

一 氣躰之事
氣は鉢のみつる所なり氣の
起るを陽と云おさまるを陰といふ
當流専氣のあつかいを教て
業をなさしむるといへとも氣
と云て顕われたるものにあらす
躰の備あしけれは其氣も随て
つりたるみ出来て全からす
平生安座したる形は意氣満々
として安躰無事なり然るに
所作をなしうこき働きする時は
其業につれて或は左にかたより
右にかたより終に平生の氣を損す
この故に當流に秘して教る所也


己か方寸の元氣を養ひものに
心をとめす其基と成處を
健固に守れは業をなしうこき
働といへとも根本とするの元氣
立しかもやわらきすわつて
正しきゆへに用る所の氣自由
自在にして左に力を入れとも
右の空しき事なく右を働せ
とも左のうつろなることなく
前後又同し起居動静ともに
常遍の平氣と成是則天の巻
にいふ処の不動智なり兵書に
曰克己と云ともかよふへきか己れ
に勝て躰正き時は千万人に勝の
利ならむ

一 志氣力差別之事
志と氣と力との差別わけていひ
かたし然れとも是をわかつて
いふは志の趣につれて其むかふ
ものを取らんと手の出るは何そ
なれは志に随ひ動て氣のかよふ
ゆへ也其ものを持上るは何そなれは
氣に随ひ集る所の力也力の出る
所は氣集氣の通ふ所には力も
随ひ寄といふ事定たる理にして
氣力不二と成然とも爰に差別を
なして記事は力を先たて業
をせは其害甚多し是を以て
力を捨唯氣のあつかいを修行
せしめんため也業熟するに
至ては人々の有来の氣力の動


につれて其業に應し出る
事教をまたすして備るへし
是元来氣力不二の處也力を
一向に嫌と云にはあらす譬へは
力の有人と無人と同位の上手に
至らは力有にしくは有へからす
然とも事業いまだ熟せさる中に
力を用ゆる所はりきみと成氣
の扱と力の扱との差別をいはゝ
事業をなす處軽く和にして
すらりとこたわりなきを氣の
扱といふてこのみ用ゆるなり
重く剛氣にしたる氣を力の
あつかひとして是を甚嫌ふ
なり

一 前後際断之事
前のこゝろを跡へつなかすして
其間をたち切へしと也是を
含て修煉すへし敵に對するに
心うこかす不滞して力の合ぬ
所にして勝利を得る事たとへは
頭へ渡るものは下空虚なり然は
かうらへこゝろを移さすとゝめす
其空虚を制すおこる所を見て
發處をすて虚に乗らすして
是を制するは前後際断の意歟

右者當流之秘傳也
能可有熟得者也
   平能寛(印)(印)(判)

− 4 −

人巻


『起倒流柔道鎧組討合巻』個人蔵

(印)
 人巻
(印)

     身碎
夢中


力避
     車反
水車


水流
     水人
曳落


虚倒
     柳雪
打碎


谷落
     坂落
車倒


錣取
     雪折
錣反

夕立
     岩浪
滝落

 表裏廿一

柄取   小尻反

諸手取  二人取

四人詰  戸入

鎧組 附馬上腰當鞍堅

居合   早縄




 以上

   今堀吉之助
      能寛(印)(印)(判)

 山中丹右衛門殿

− 5 −

性之巻


『起倒流柔道鎧組討合巻』個人蔵

性之巻
(印)
  二勢中

  五行中

  陰陽中

(印)



   氣


忘氣

太極

 以上


右雖為極意多年
執心因熟煉以口傳
不残令授與所如件

文化十二乙亥年 今堀吉之助
 十月      平能寛(印)(印)(判)

 山中丹右衛門殿

− 6 −

口傳秘書巻


『口傳秘書巻』個人蔵

   體之巻

 本體者体之事理也専離形扱氣
 不得正理己不知扱氣静貌至所
 得静氣敵之強弱能徹強弱通達
 則千變萬化無不制敵是則中虚
 實為本務体之正而已故本體云
 爾  右の正理と云は術の正理にあらす全躰天地の間
    萬物の正理也 中虚実と云は呼吸の間え中る也

一 殺活の口傳は殺はのどしめるなり活は當流にては後より抱へて
  起し立て腰をふみ倒す 又関濽流にてのどじめには○はらばいにふさ
  しめて四足を持てあをつ 又中の活には同しくふさしめて七九の所に
  右の手の中て有なり揚心流も同しこととも申なり此関せんりうの
  死活は山名氏にて合田祐順受たりと云予故有て傳之何れも
  術口傳
一 殺活の時人のこきう晝夜に数一万三千五百息として
  其割を以て三百息の内は活あたる其余あやうし

   天之巻

一 心裡虚霊しんりきょれいとは心のうちかゞみののとぎたてたるが如を云

一 風水智音ふうすいちいんとは不動智しんりきよれきなるときは
  不見して敵の胸中通つる義なり
一 すべからくたなこゝろ静謐せいしつにすとは只歌を手の中にてかるくもむ
  やう心を安く修行せよと也

   人之巻

一 形表十四   たい    ゆめのうち  りよくへき  水くるま
  みつながし  ひこをとし むなたをし  うちくだき  たにをとし

  くるまだおし しころどり しころがえし ゆうだち   たきをとし
一 同裏七手 無段と云           みくだき   くるまがえし
  すいれん   りうせつ  さかをとし  ゆきをれ   いわなみ
一 柄取とは両手にて大小のつかを持ていかゞするぞと
  云とき敵の鼻をつまみたること也
一 小尻反のときは少し左えつゝこみて足ふみこむとゆるむ也
一 諸手取は両手にて両手をもつとき手をすてゝ前へ
  ひきふみこみて倒す敵より引てもつきても同し
一 二人詰は両方より両手にて手首を持つよく引ときに
  片し引てひじにてあてこむ也
一 四人詰は二人取に又向に二人立時左を引右の人にわさを
  かけて向の左の人にかゝるなり夫より又右の人にかゝる
  なりすじかへてかゝるなり
一 戸入は戸口出入のせつ戸にそいてあけうかゞいて入こと也

一 鎧組は四つに組て上手にてかぶとのしころを持てその
  もちたる方のひさを折三つ足になりたゝみふせることなり
 附 馬上と有は早く自分より組をちて組しくこと也
   腰當鞍堅腰より細を前へとり前にてもじりあ
   ぶみへよくふみつけるなり
一 居合とは常に心得あること也
一 早縄とは八寸縄のこと也縄はことの糸をねりて用ゆ
  前後鉄にて板金形[図]如此大さ金五六分
一 中は・面え下より中るしやうしんと云・両の耳を打を松風と云
  ・八十より上の中しん上の中と云・両眼の中むらさめと云

一 四人詰に両手をぎやくに取ふせられ足も二人にてをさ
  ゆるとき足の少しゆるみたる方をかゞめてしりを少し
  ふり體をねしると手のぎやくはつるゝなり

右いづれも用に立ぬこと也故に流義に右やうのわさ無之

   性之巻


一 二勢中はつよくかゝる者をくぢきよわきてものにてかつ也
一 五行の中は體にてあてる也敵の腹内に中ること也
一 陰陽の中は虚實にて中ること也
一 性は天より生れ来る処の義也
一 心氣は心氣をあるかうことをもつはらとす
一 機は今をこるきさしこうして勝あゝして勝のきさし也
一 忘機は何もをもわすしてをこりをまつにもあらすしかけにもあらすして勝こと也
一 大極は何もなく只こんせんとしたること也是より何事もをこる也

   諸流十二之形

一二
一 もろ手取は立て右の手上にして両手にてむね持つく
  取方左の手にて下の手を持左の足引右の手上より割込
  右へ倒す左右二手也
三四
一 片手をとしは右の手にてむねとる取方右の手にて手先を
  持左の手をそへぎやくにはなし前へ打也左右二手
五六
一 なびきは両手にて両手首もつ取方虚実にふり足を敵
  の足の後へふみ込たをす左右二手

一 うしろ掛一人先へ行取方一人跡より行えり持引かゝ
  みふみ倒す
八九
一 をもかげ行違取方より両手にてむねなで右の足ふみ込さかに
  腰いだき倒す左右

一 たいかい右の手にてまつこうをうつ取方左にてうけその手逆
  にとりかたより前へをとす
十一
一 ともへは取方より両手にてむね持なからわかれ取直にのとしめる

十二
一 四手からみはあぐらかき居る左の手を左の手にてもちひつたつる也
  立ぬゆへに右の足ふみ込右の手前より入て引立て後へ少しふり又
  前へたをし手をねち上げうしろにてとめる

此十二の形も用に立ぬこと也是にて色々の
わさををしゆる義なり




本體は体の事理也、専ら形(かたち)を離(はな)れて氣(き)を扱(あつか)う、正理(せうり)を得ずして、己(おのれ)氣を扱ふを知らず、静(しつ)かなる貌(かたち)、静なる氣を得所に至て、敵の強弱能く徹し、強弱通達せば、則ち千變萬化して、敵を制せざると云こと無し、是則虚實に中(あた)る、為に本を務(つと)むるは体の正(たゝ)しきとする而已(のみ)、故に本體と云爾

− 7 −

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